あたし、葛城ミサト29歳。特務機関ネルフ作戦局第一課所属。
ちょぉ〜〜〜っぴりおおらか過ぎたり麦芽好きだったりするけど、
ホントはね……愛と正義のプラグスーツ美人戦士・葛城ムーンなの♪
……何よぉっ、文句あるっ!?
美少…って歳じゃな……い、いや、何でもない…戦士
葛城ムーン
第1話
「酔いどれミサトの華麗なる変身」
……銀……を探せ……
……幻の銀……を我が元に持……えるのだ……
……第参使…サキエル! 行くのだ……
……そして……我が手に……
………世界を………
「うーん、おかしいなぁ……」
駅を降りた少年、マルドゥックの報告書によって選ばれた、サードチルドレン碇シンジは周囲の光景を見まわして首をかしげた。
「初めて来たのに……なんか見覚えがある気がするんだよなぁ……」
関東中部全域に特別非常事態宣言が発令され、交通機関は死んでいる。
やむなく降りた街にシンジは奇妙な懐かしさを感じていた。
だがシンジはこの駅で降りた事も、この街に足を踏み入れた事も絶対にない。
それなのに、今見ている街並みに既視感を覚えていた。
「もしかしたら……前世とかで来たことあるのかな?」
それはありえない。
たとえ生まれ変わっているのだとしても、15年前にはまだこの街は現在の形になっていない。
きっと勘違いだろう。
「さぁてと……どうしようかなぁ……」
ポケットから手紙と写真を取り出す。
写真に映っているのはシンジと同じ歳くらいの美少女。
彼女は、セーラー服に似た派手派手しい……というか恥ずかしい衣装をまとい、手には何か鈍器のようなものを持っていた。
ウインクしながらポーズを決めているが、ひるがえったスカートの中に白い布地が見えている。
「下着……じゃないよな。レオタードだもんな……」
少し残念そうに呟いたシンジは、上空に戦闘機の影を見て不思議に思った。
「なんでこんなところ飛んでるんだ……ブラジルが戦争でもしかけてきたのかな……。
いや、それはないな。もし日本が気に入らなかったらグラウンドの上で叩きのめせばいいんだもんな」
ヘンな想像を呟きながらシンジはふたつ隣の駅へ向かって歩き出した。
そこで待ち合わせをしているのだから、行く他ない。
不意に山間から大きな何かが顔を出した。
その周囲に戦略自衛隊のものであろう、ヘリや戦闘機が飛び回っている。
「なんだろう……大きいなあ」
そう思っている間に戦自の攻撃が雨あられと降り注ぐ。
ドドーン!! ババーン!! ズゴゴゴゴゴーン!!
爆風は広がる。だが、巨大生物にはさっぱり効いていなかった。
巨大生物は戦自などハエと同等であるかの如く好き放題に暴れ回る。
広がる衝撃はシンジの元へも到達した。
「うわぁぁぁっ!」
両手で顔をかばい、その場に座り込むシンジ。ただしぺたんと女の子座り。
危うく破片に直撃されそうなところを、突如現れた乗用車にカバーされ救われる。
バッとドアが開き、ドライバーの姿が見える。
それは誰だか分からないが良く知っているような気がする、オバ、オバ……(殴)うわっ
妙齢のおねえさまだった。
「お待たせシンジくん! 早く乗って!」
「え……僕の名前を……誰?」
「いいから急いでっ!」
当然の事ながらシンジは写真の美少女と、目の前のオバ(殴)おねえさまが同一人物である事に気付いていない。
爆音を上げて車は走り出す。
シンジは助手席で呆然としていた。巨大生物はゆっくりとどこかへ向かっている。
乱発されるミサイル。しかし、いくら撃っても無駄のようだ。
「あのう……あなた一体誰ですか?」
「あれは……『使徒』よ」
「……いえ、あの僕は……あなたが誰かって聞いてるんですけど……」
「今は詳しく説明してるヒマがないわ! しっかりつかまっててよ!」
車はスピードを上げる。
向かう場所は第3新東京市。その繁華街にあるゲームセンター「クラウン」だった。
華麗なドリフトで人気のない道路を突き抜け、車はあわやクラウンに突っ込む直前で止まった。
ちなみに今ごろ「我々のNN地雷の威力だよ!」とか「そのためのネルフです」とかどこかでやっているが、それはどうでもいい。
「シンジくん! ちょっとそっち持ってくれる!?」
「あ、はい……どっちへ動かすんですか?」
「右ね、下に隠し扉があるから、見えるまで動かすわよ。せーのっ」
クラウンに入ったミサトとシンジは、一台のゲーム筐体を移動させた。
その下には床下収納庫のフタのような扉がついており、表面に「NERV」と葉っぱを半分に切ったようなマークが書かれていた。
「特務機関ネルフ? ……あ、じゃああなたが葛城さん?」
ようやく合点が行ったシンジがミサトの顔を見て目を瞬かせる。
(葛城ミサト……あれ? 写真と違わないか?)
ポケットから写真を取り出し、目の前のおねえさまと見比べてがっくりと肩を落とした。
入り口のフタを開けていたミサトがシンジに声をかけようとして、その手の中の写真に気付いた。
「あ、ああそれ? へへへへ……ごみんね、それあたしの15年前なのよん」
「そんなぁ……」
何を期待していたのか知らないが、シンジの夢は打ち砕かれたようだ。
地下に下りると、長いエスカレーターのようなものに乗せられる。
動き出したそれはやがてジオフロントに出た。
それは壮大な光景で、初めて肉眼で確認したシンジは、思わず息を呑んだ。
「すっごいでしょぉ、これが私たちの秘密基地、ネルフ本部よ」
「すごい……本物だ……! でも……なんでだろう……ここも前に見た事あるような気がする……」
「……シンジくん……? (まさか……)」
ミサトの目が一瞬鋭さを帯びるが、シンジはそれに気付かない。
「あの……葛城さん」
「ミサトでいいわよ」
「じゃ、あのミサトさん。父さんがしてる仕事って……実際は何なんですか?」
「さあ? あたしも良く知らないわ。世界を守る立派な仕事ってのが建前で、実際には各国に兵器を売ってるって話も聞くけど」
「た、確かに……あの顔なら正義の味方よりは死の商人って言ったほうが似合いますよね……あ! と、父さんに言わないでくださいね!」
「わぁってるってば。……お父さん苦手なのね。あたしと同じだわ」
「ですよね! あのイカつい顔の父さんを苦手じゃない人なんて、そうそういませんよね!」
ミサトは自分の育った境遇について話したつもりだが、シンジには伝わっていなかった。
Pretty (soon 30) soldier Katsuragi moon
やっと本部まで来たミサトは当然のごとく迷い、リツコにSOSを飛ばす。
エレベーターの扉が開くと、リツコが立っていた。
「ミサト……あなた何度迷えば気が済むの? 人手も時間もないときに、余計な手間を増やさないでちょうだい」
「あ、リツコ……ごめ〜〜ん、まぁだ不慣れでさぁ」
「その子が例のサードチルドレン? 確か碇……」
「シンジです。はじめまして、えっと……」
「私は技術一課E計画担当と……あと2、3余計な仕事もしてる赤木リツコ。よろしくシンジくん」
奇麗なお…ねえさんの微笑みにシンジはどぎまぎした。
「は、はい」
「んじゃあリツコ行こっか、エヴァのところに」
「エヴァ……?」
状況を掴めないままシンジはケイジへ連れてこられた。
明かりがともされ、シンジの目に巨大な紫の顔が飛びこんでくる。
歯並びが悪い初号機。
「これは……どうみても悪役ロボットの顔ですね」
「ちょ、ちょっとシンジくん、いきなりそれはないんじゃないのぉ?」
「でもカッコ悪いですよ。作った人の趣味を疑いません?」
「だからって……」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ミサトの言葉を遮るように、前触れなく警報は鳴り響く。
使徒と呼ばれる巨大生物は強羅最終防衛線を突破し、その目的地は第3新東京市であるとの予想結果がはじき出された。
『総員第一種戦闘配置 くり返す 総員第一種戦闘配置』
突然の放送にシンジは慌てふためく。
「な、え、何ですか!?」
「とうとう来たわね……あたしの……敵」
「私たち人類全ての敵よ」
「だから何がですか!?」
「シンジくんもさっき見たでしょぉ〜、使徒よ、シ・ト」
「あ、あの巨大で滑稽な姿のあれが……使徒」
「そしてこれは使徒を倒すための人類最後から2番目の切り札、汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機よ」
「これ……父さんが作ったんですか」
「そうだ。久しぶりだな」
シンジが頭上を見上げると、碇ゲンドウの姿が見えた。
「父さん……」
ゲンドウはニヤリと笑みをこぼす。
3年ぶりに息子に会うのが嬉しいのだが、とてもその顔ではそう思えない。
「……シンジ。お前を呼んだのはこれに乗せて使徒と戦わせるためだ……他の人間には無理だから説明を受けて早く乗れ。でなければ帰れ!」
「そんな一気に言われてもわからないよ……。……でも、乗れっていうならやってみようかな……」
「ま、起動確率0.0000000001%だって言うから動かなくても当たり前らしいけどね」
「ミサト、ゼロひとつ多いわよ」
「あ? そう? いいじゃないのよそんな細かいコトはど〜でも……」
「よくないわよ! 人類が生き残る確率を10分の1にしてるのよ!?」
「あの……ふたりとも、今はそういう事言ってる場合じゃ……」
「だいたいあなたはいつもいい加減なのよ! 人が苦労して組み上げたネコ型ロボットのAIを3秒とかからずにお釈迦にするし!」
「なによぉ! そんな昔の事いつまでもいつまでも!」
「あの……早くしないと使徒とかいうのが来るって……」
ゲンドウは額を押さえてモニターへ視線を向けた。
「冬月、レイを起こしてくれ」
「使えるかね?」
モニターの中の冬月が答える。
途端にゲンドウの目が眼鏡の奥で見開かれる。
「レイをモノのように言うな!!」
「あ、ああ……すまん……(またか……レイの事となるとすぐにこれだ……)」
げんなりした冬月に代わって、病室のレイが映し出されるとゲンドウは無意識にニヤリと微笑んでいた。
「レイ。予備は使い物にならない。もう一度だ」
「…碇司令……」
包帯が身体のあちらこちらに巻かれた眼帯の少女は、表情こそ希薄ながらも、その赤い瞳を涙に潤ませながら訴えた。
「…………いたいの」
ゲンドウ陥落。
「……わかった。休んでいろ」
震える指で通話を切る。
そして再びケイジに目を向ける。
「だぁ〜かぁ〜らっ、レイでさえシンクロするのに7ヶ月もかかったのよ!?
今日来たばかりのシンジくんにできるわけないじゃない!」
「でもレイは重傷なのよ! 今無理をさせるわけにはいかないわ!
操縦と言っても座ってればいいんだから文句言わないで欲しいわね!」
「あの、もう止めてくださいってば……僕が乗りますから……」
口論する二人の間でオロオロしているシンジの姿が飛びこんできて、ゲンドウは天を仰いだ。
だがこう見えても特務機関ネルフ司令である。
気を取りなおして息を大きく吸った。
「赤木博士! 葛城一尉! 構わんからシンジをエントリープラグに放りこめ!!」
指示を浴びた二人の動きが一瞬止まる。そして同時にシンジに顔を向ける。
「ごめんねぇシンジ君、命令だから……」
「……仕方ないわね」
「えっ、あっちょっと……」
ついさっきまでいがみ合っていたリツコとミサトは、シンジの腕をそれぞれ引っつかむと瞬く間にロッカールームへ駆け込み、服を剥ぎ取ったりプラグスーツを着せたりいろいろして、初号機のエントリープラグに据え付けてしまった。
ちなみに脱がされる際シンジが「きゃぁっ!!」と悲鳴を上げたが、別に彼にはそういう趣味はない。
(……乗るって言ってるのに……無理矢理しなくたって……)
シンジはエントリープラグ内で繊細なハートにちょっぴり傷を負っていた。
しかしパイロットの精神状態に構わず、初号機起動のための手続きは行われていく。
発令所ではゲンドウ、冬月、リツコ、ミサト、他オペレーターたちが顔をそろえている。
「ええと……第一次接続、開始」
まだ手順が完璧に頭に入ってないのでマニュアルをぺらぺらめくりながらの青葉。
「エントリープラグ注水……でいいんですよね、先輩」
「そうよ」
マヤはマニュアルを覚えようと毎日家へ持って帰っているのだが、今日はたまたま忘れてきており、おそるおそる操作しながらリツコの顔をうかがっている。
プラグ内にヘンな色の液体が満ちていく。
「えぇっ! このうえ水責めですか!?」
こ、殺される……と思い大慌てのシンジ。
「そのLCLは肺に入れば、直接酸素を取り入れてくれるから空気を吐き出しても大丈夫よ」
『あ、そうですか…………うっ、ごっ』
いくら大丈夫だといっても肺に液体が入ろうとすればむせもする。
顔を真っ青にしてぜえぜえと喘ぐシンジ。
「シンジくん生きてるー?」
『な……なんとか……』
「次は……と、第2次コンタクト準備よし。主電源接続します」
「あっそこは私のセリフですっ!」
「……あ、ホントだ、ごめんごめん。じゃ、次のセリフあげるからさ」
電源が接続される……が初号機は動かない。
エヴァの状態を示すモニターに居並ぶ諸数値は0やマイナスであり、当然動くはずもない。
ミサトが渋い顔をしてリツコをつつく。
「やっぱしダメなの?」
「まだ決まったわけではないわ。―――そこ、シンクロ誤差を0.3%以内に押さえて」
「A10神経接続異常ありません。思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス……先輩フィックスって何ですか?」
「八百長……って今はそういう時じゃないでしょ。後で教えてあげるから、続けなさい」
「はい。初期コンタクト全て問題なし。双方向回線、開きます」
(うあ、なんだコレ……)
シンジの視界の端々にみよん、みよんといくつも何かの情報を映した画面が表示される。
「どうやって動かすんだろう? やっぱりこれが操縦桿かな?」
がちゃがちゃといじってみるが反応はない。
「ちょっとシンジくん! 命令があるまで勝手にいじらないで!」
『でも……これ動かないじゃないですか』
「おかしいわね……シナリオ…じゃなくてMAGIの予測だとここで一気に40%オーバーのシンクロ率を弾き出して起動するはずなんだけど……」
「あんたさっき言ってた起動確率0.000……ってのMAGIが出した予想じゃないの?」
『どうすればいいんですか? ねえ、ミサトさん!?』
「ああ、それは表向きよ……それにしてもヘンね……これじゃ人類滅亡まであと2時間かしら」
「んなノンキに構えてる場合じゃないでしょう!? どうすんのよ!」
『教えてくださいよぉ! まず説明なんてなにも――』
「ああっもぉうるさいっ! 青葉くん、初号機の通信切っちゃってくれる!?」
「え、いいんですか…葛城一尉…?」
「いいのよ! ―――んで、どうするの!?」
「あとは……あまり気は進まないけど、レイでやってみるくらいしか……」
リツコがゲンドウをどうやって説得するか考えていると、不意にジオフロント全体にズドーーーーン!!と振動が起こった。
「奴め……ここに気付いたか」
天井を見上げて呟くゲンドウ。
使徒はついに目的地が地下であると感じとってジオフロント目指して攻撃を開始したのだ。
地上では十字架の形に爆発四散する炎らしきものが巻き上がっている。
ちなみにケイジでは建材の一部が崩れ落ちてきていたりするが、そこには誰もいないので問題ない。
「レイで起動する確率は?」
「あまり代わり映えしないわね」
「起動したとして勝てるの?」
「……ゼロではないわ。でも……感情的な表現をすれば、人類の歴史も今日限り、ってところかしらね」
「………………」
ミサトは唇を噛んで何かを考えている。
その心のうちを悟ったリツコが、目を細めてミサトの肩に手を置いた。
「出るつもり? やめておきなさい、あなたが行ったところで結果は変わらないわ」
「……やって見なくちゃ、わからないわよ」
そういうミサトの拳は固く握られている。わずかに震えてすらいるようだ。
「ミサト…………あなた、本当に戦えるの? 今度ミスをすれば、間違いなく、死ぬわよ!」
普段の静かな印象を裏切って、リツコの声が管制室に響き渡る。
不安そうにこちらを伺っているものも居る。
「……いずれにせよ、使徒を倒すのがあたしの仕事だもの」
ミサトの声は小さくか細かったが、そこに篭められた意志は揺るぎ無い確たるものだった。
リツコはミサトの顔を見ていたが、やがて目を閉じてため息をついた。
「……あなたって人はいつも自分勝手なのよね。たまには私の意見も聞いたらどう?」
リツコの声に責める色はない。
ミサトは目を伏せた。
「……ごめん」
「いつものことよ。気にしてないわ。
……初号機を載せるはずだった搬送路で良ければ使ってもいいわよ。
ただし……前世紀の宇宙ロケット並にGはきついけど」
「……ありがと、リツコ。―――行ってくるわ」
駆け出すミサトの姿を目に留めたゲンドウは、シンジが乗りこんで随分たつのに未だ動かない初号機を見て表情を固くした。
「赤木博士、初号機はどうした」
「シンクロ率0.011% 起動は不可能です」
「……そうか」
「システムをレイに書き換えても結果は同様である可能性が非常に高いです。
……今の初号機には……魂がありませんから」
リツコの分析を聞いても、ゲンドウは顔色ひとつ変えない。
それが当然であると受け止めているのだろうか。
「使徒の殲滅は、初号機に代わって葛城一尉が行います。
司令、出撃許可を!」
「……反対する理由はない。存分にやりたまえ」
ゲンドウはニヤリと笑う。まるではじめからこうなる事を予想していたかのように落ち着いた様子だ。
リツコが鋭い声で指示を放つ。
「現時刻をもって第一種戦闘配置を解除! かわって総員第零種戦闘配置!」
『総員第零種戦闘配置! 繰り返す! 総員第零種戦闘配置!』
放送を聞いて、初号機を出撃させるために動いていたネルフ職員たちは、わらわらとケイジを引き上げて別の作業をすべく散っていく。
モニターに映るデータ類も次々に、初号機のものではなくなっていく。
「青葉二尉、本部内すべてにつないで! ―――ミサト、聞こえる?」
『感度ゴー、バッチリ聞こえてるわよん』
「では搬送路へ走りながらでいいから、良く聞いて。今のあなたの力は春の体力測定のデータを元にして、15年前の約28%と推測されるわ」
『そんなに低いの? それはちょっちヤバイわね……』
「恐らく戦闘可能な時間は5分程度。フルに稼動すれば1分ほどしか持たない」
『……つまり、1分でけりをつけろ、ってことね……』
「いいえ、もっとひどいわ。
使徒に止めを刺すための必殺技で使用するエネルギーを考えれば、実質戦えるのは30秒足らずね」
『30秒!? 現役復帰第一戦に厳しいハンデつけてくれるわね!』
日頃の運動不足がたたってか、ミサトは通路を走りながらもう呼吸を荒げていた。
モニターのミサトを見ながらくす、と微笑みをもらすリツコ。
「そんなことは日頃精進している人間が言うことよ。
……それで、少しでも力を温存するために、搬送路は生身で耐えてもらう事にしたから」
『んな無茶なっ! ……って言っても、やるしかないわけね』
「昇降機が地上に出たら宙に放り出されるから、そのまま変身して、あとは好きにしてちょうだい」
ミサトが苦笑を浮かべる。
『なんていいかげんな指示なのかしらねぇ〜』
「作戦を考えるのはあなたの仕事でしょ」
『わぁかってるって! ―――リツコ、あれに乗ればいいのね?』
「ええ」
ミサトは初号機が地上に運ばれる予定だった、巨大な昇降機に飛び乗った。
そして衝撃にそなえて両手を床につき、態勢を整える。
『いいわよ! 出して!』
リツコは真顔でゲンドウを振りかえる。
「構いませんね?」
「……使徒を倒さぬ限り、我々に未来はない」
その言葉を承認と受け取ったリツコは、マヤに頷きかける。
「進路オールグリーン。……葛城さん……ごめんなさいっ!」
ぎゅっと目をつぶったマヤによってポチっ、とボタンが押され、昇降機は強烈な加速度で地上へ向けて上がっていく。
「くっ……うぅぅぅっ……!」
押しつぶされそうな重さを感じて苦悶するミサト。
モニターに表示されている昇降機の現在位置が点滅しながら上へと向かって動いていく。
地上では巨大生物が十字架爆発で自由気ままに都市の破壊を繰り返していた。
そして使徒は、地下から近づきつつある気配を察してその場に足をとどめた。
仮面のような不気味な顔にふたつ空いた穴が光り、油断なく周囲をうかがう。
使徒の前方で、交差点が割れた。
殺人的な速度でせりあがる昇降機。それに乗っていたアリのような小さな生き物が慣性に従って空高く舞いあがった。
ミサトの身体が飛んだことをスクリーンで確認した瞬間、リツコは素早く懐から黒いネコ耳を取り出して自らの頭部に装着した。
そして、ぐっと拳を握り締めて羞恥を心の隅に追いやり、キーワードを唱える。
「ミ……ミサトちゃん! 変身よ!!」
突然のリツコのシャウトに発令所のほぼ全域から視線が集中したが、すでにリツコはネコ耳を外して白衣の内に隠していたため、何を付けていたのか気付いたものは少なかった。
良く見ると少し顔が赤い。
―――パキンっ。
何かが割れたような小さな音が、今だ第3新東京市の空を慣性航行中のミサトの胸元から聞こえた。
リツコの黒ネコ耳から発せられた信号によって最終安全装置が解除された音だ。
「よぉしっ! サンキュぅルナっ!……じゃなかった、リツコ!」
ミサトは首から下げていたロザリオを引き千切らんばかりの勢いで外し、ぐっと握り締めて祈った。
「―――お願い、あたしにもう一度力を貸して―――」
想いに答えるかのように銀のロザリオはぽうっと淡い光を発する。
そしてミサトはそれを天に掲げ、魂の奥底から叫ぶ!
「シルバーーーーロザリオパワーーーーーーッメーーーーーイクアーーーップ!!」
ロザリオがまばゆい光を放った!!
ミサトを中心として虹色の光があふれだし、周囲のビルを幻想的な色合いに染めていく。
ミサトの衣服が消滅し、あとに残った銀色の十字架から爆発的に放出された薄紅色の光の粒子が、リボンのように収束してミサトの身体を覆っていく。
「あっ……く……ぅう…っ…!」
リボンが一枚肌に貼りついていく毎にミサトはびくっと身体を震わせて何かに耐えるように唇を噛む。
正体不明の強大なエナジーがミサトの身体を侵食しているのだ!
そして光の最後の一粒までもが同化したとき、ミサトはシンジの持つ写真と同様の衣装をまとっていた。
「―――うっし、久しぶりにしちゃぁなかなかやるじゃない、あたし」
空中で態勢を立て直したミサトは、普通の人間なら激突して即死間違いなしの勢いで手近の兵装ビルの屋上へと落ちていき、見事に着地を決めた。
夜の街並みを睨むミサト。
視線の先には、微動だにしない使徒がいる。
「葛城一尉、地上に到達しました!」
「残り稼動時間5分です!」
本来ならば初号機の残り時間を表示するパネルに「葛城」の文字がともり、カウントダウンを始める。
「そのままモニターを続けて。特殊効果部隊は上に出てる?」
「既に待機中、いつでもOKです!」
使徒VSミサトの構図がメインスクリーンに大写しされている。
じっと成り行きを見守っていたのに誰も存在に気づいてくれなかった冬月が、ようやくセリフをこぼす。
「15年ぶりだね」
「……ああ」
ゲンドウが手袋の奥でニヤリと笑みを作る。
「青葉二尉、特殊効果部隊に作戦開始を通達して!
日向二尉! ……あなた居たのね……兵装ビルでの援護を準備!」
「「了解!」(……あなた居たのね……居たのね……居たのね……)」
(死ぬんじゃないわよ……ミサト)
「兵装ビル屋上の特殊効果部隊、作戦開始しました! 音楽、スポットライトともに出ます!」
いつ設置されたものか、周囲の兵装ビルの屋上から、スポットライトがミサトに集中する。
そしてどこからか場を盛り上げる勇ましいオーケストラの音色が溢れ出す。
ミサトは眼前で次の行動を探っている使徒にびしぃっと指をさした。
「第3新東京市を破壊し! あまつさえ人類滅亡を企む使徒!
たとえ戦略自衛隊が許しても、このあたしが許さない!!」
ミサトの背後に、赤いレーザー光線がNERVの紋章を浮かび上がらせた。
「葛城ムーーーン!!」
決めポーズを舞うミサトの動きはまるで闘志を奮い立たせるウォークライのようにも見える。
「ネルフに代わって……おっ仕置きよっ!!」
【へぇ〜、お仕置きってどうするつもりなの?】
「!」
声はミサトの後ろから聞こえた。
振り返ると、いつ現れたのか小学校低学年くらいの女の子がそこに立っていた。
「逃げ遅れたの!?」
特別非常事態宣言は解除されていない。住民はみな地下シェルターへ非難しているはずだった。
慌てて少女を保護しようと駆け寄るミサトだったが―――
「赤木博士! 使徒のパターンがオレンジに変わっています!」
「なんですって?」
「しかもそれとは別に、新たなパターン青反応が現れました! 葛城一尉のすぐそばです!!」
青葉の言葉によってリツコの脳裏にある推論がひらめいた。
「いけないっ! ミサトっ逃げてっ!!」
―――少女の手を握った瞬間。
少女の瞳は鮮やかな紅に色彩を変じた。
「その瞳は!」
【あはははは……葛城ムーン……『幻の銀十字』はこの第参使徒サキエル様がいただくわ!!】
冷たい微笑みを浮かべた少女はミサトに抱き着いた。
その直後、十字の爆炎が、ミサトの居た兵装ビルを粉々に吹き飛ばした。
つづく
1999/07/04
「
EVAを愛する人たちへ
」内「愛と電波の泉」よりサルベージ。
そして改版。
「なっ、ここで終わりかぁ!?」なご感想は三笠どらまでどうぞ。
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