愛のSS(仮)2001

born from 三笠どら
 
 
 



   SIDE-A 彼の告白


 ひとつ、忘れていた事がある。
 きっとこれはみんなも忘れているに違いない。

 そして、思い出してしまったオレとしては、忘れていたい事項だったりもする。



 あ、まだ自己紹介してなかったか。
 どうも、日向マコトと言います。

 だいたい「発令所に居るメガネのオペレーター」って覚え方をされるけど、別に気にしてはいません。
 と言うか今はそんな事構ってられない事態なんです。
 何かと言えばまあ、オレの周辺の人間を2〜3人見回してみれば、そのうちの誰かが原因だってのは分かってもらえると思いますが、そう、アイツの事です。

 青葉シゲル。オレの敵です。
 今日だけは。

 なぜかと言うとこれが冒頭の独白に戻るわけですが、その前にみなさん、正直に答えてみてください。

 オレとシゲルを並べてどう思いますか?

 いえ、「どっちも脇役じゃ?」とか「どうせオペレータA&B」とか悲しいこと言わないで考えてみてください。
 で、改めて聞きますが、オレとシゲル、どちらが上だと思いますか?

 わかります? 何が言いたいのか。

 つまりです、年齢も同世代、階級も同じ、仕事場は発令所、仕事は大きくくくってオペレーター。
 で、どっちも彼女ナシ。独身。
 似たような立場だと思いますね?
 だからまあ、マヤちゃんも含めて束で「オペレーター」扱いされるワケなんですが、でも実は全然違うんです。

 あんまりハッキリ言ってしまうと、立ち直れなくなりそうで辛いんですけど、言います。

 青葉シゲルは……カッコいいんです。

 いえ、疑う気持ちは良くわかります。オレだって信じたくありません。
 でも事実なんです。



【証拠A・見た感じ】

 ルックス。アピアランス。ビューティ。なんと呼んでもらっても結構。
 とにかくこの2枚の写真を並べてみれば一目瞭然、男のオレから見てもどっちのオーラが強いかわかります。


【証拠B・趣味】

 オレ。特になし。強いてあげれば読書。ただしマンガが主
 シゲル。ギター。しかもアイツは歌も上手い。甘い弾き語りなんかされた日には、卒倒する子も出かねないくらいだ。
 実際、忘年会の時なんかシゲルのヤツ、総務の子に囲まれちゃってさ。カラオケのリクエストなんかされてた。
 なにが「バイス歌って〜!」だよ。そんな古いマニアバンド、誰が知ってるってんだ。


【証拠C・将来性】

 オレ。中央作戦司令部作戦局第一課。二尉。
 シゲル。中央作戦司令付オペレーター。同じく二尉。
 一見同じに見えるが、良く見てくれ。
 作戦司令付だ。
 これはつまり、アイツの直属の上司は司令・副司令ってことなんだよ。
 わかるよな? オレの上司は葛城さんだ。彼女はアバウトな人だけど、常に結果を出している。つまりオレが葛城さんを一足飛びに抜いて上に行くのはまあ、無理な話って事だ。
 対してシゲルはすぐ上に副司令。
 まあいくらお歳とは言えそんな事は無いと思うが、もし副司令が倒れでもしたら、代わりの人間が来るまで代行するかも知れない位置にいる。
 いずれはアイツ自身が取って代わることになるだろう。
 そう、実はシゲルはエリートなんだ!
 確かに今はオペレーターだが、いずれ世界にはばたくネルフの顔になるかもしれない男なんだ!



 ……とまあ、これでだいたい分かってくれたと思うけど。
 そして、今日は2月14日なわけだ。

 さあ、答えてくれ。

 君が総務課の女の子だと仮定して、発令所に居る人間はネルフの中枢だって事は分かっているとしよう。
 で、君の手の中にはラッピングされた箱があるワケだ。

 さて、どっちを選ぶ?

 いや言わなくていい。
 それを踏まえた上で、現実を見てくれれば、オレの境遇を理解してくれれば、それだけで充分だ。

 第一、君に同情をもらったところで、寂しくなるだけだからな。

 オレは……オレが夢に見るあの人は、カレーとか、辛いモノの方が……ビールのつまみになるモノの方が好きなんだから。

 悪いな、愚痴聞かせちゃったみたいで。
 忘れてくれ。
 そして、忘れさせてくれ。

 あの、ヤツのデスクに山になってる箱を記憶から閉め出す方法を教えてくれ!






   SIDE-B 彼女のやりかた


 就業時間よりちょっぴり早く来てしまった日向は、既に朝から大フィーバーの青葉のデスクを恨みがましげに眺めてすさんだ目をしている。
 まるで飢えた野獣だ。メガネをしてるので文化的な野獣だ。

「おはよーっす」

 青葉が出勤してきた。そして今日も長い髪を揺らしながら椅子に……

「おはようマコト……うわっ、なんだこりゃあ?」

 座ろうとしてようやくそれらの物体に気づいたらしく、その箱のひとつを手に取る。
 そして、一泊黙り、ようやく今日が何の日か、その意味を思い出したらしく、眉を潜める。

「そうか、もうそんな時期か……参ったなぁ、俺甘いモノだめなんだよなぁ」

 ぼやきながら席に着く。
 特に嬉しそうには見えない。
 食べたくない物に感情込められても受け取れないから意味ないよな、と言わんばかりの表情だ。

「スゴイなシゲル。いくつくらいあるんだ?」
「さあなぁ……でも今年はいつになく多いな。やっぱり、いつ死ぬかわからない時代だから、ってことか」

 箱を眺めながらハァ、と溜め息をついた青葉は、よし、と気合いを入れながら立ち上がると、デスクの引き出しからコンビニの袋を引っぱり出した。

「それだけあると食べるのも大変だよな。手伝ってやろうか?」
「いや、これはくれた子たちに返すから」
「もったいない! なんで返しちゃうんだよ?」
「迷惑だからだよ」

 彼が言うにはこうだ。

 こうしてわざわざプレゼントを用意してくれると言うことは、多少なりとも好意を持ってくれているはずである。
 それは嬉しい事だ。迷惑じゃない。だが、だからこそ彼は思う。
 なぜ、顔を合わせる機会をくれないのか?
 どんな人が自分に好意を寄せてくれているのか知りたいと思う気持ちは自然じゃないか?
 それに相手の顔も知らずに物だけ勝手に置かれて、いったい誰に感謝すればいいと言うのか?
 ありがとうの一言も言わせてくれないのか?
 不要な食品を一方的に贈られて、断る権利も俺には無いと言うのか?



「……それで、わざわざ探し出して返して歩くのか……大変なんだな」
「直接渡してくれれば、その場で断るんだけどな」

 時は進んで昼休み。昼食後。
 青葉は可愛らしいラッピングのひとつひとつを破かないように丁寧に開き、差出人の名前が無いかチェックしている。
 そして名前、所属が明らかな物についてはメモを取り、包装を元に戻してから、見分けがつくように付箋紙を張って名前を書いていく。

 中には「技術局二課」など部署名での団体からの贈り物や(なぜ青葉のデスクに?)無記名の物もあり、これは返しても仕方ない、返せないので甘い物が好きな人間にあげるなどして処分する為、コンビニの袋に入れておく。

 根気の要る、単調な、実りのない作業は続いた。

 手伝っていた日向も、確かにこれが毎年ではもらっても嬉しくないなぁ、と理解し、何も考えずにただ欲しい〜欲しい〜と鳴いていた自分は飛べない雛鳥だったと思った。

 そして、ようやく仕訳が終わり名前の書かれた返却可能な品を別の袋に入れた青葉が、

「じゃあ俺、近い部署回ってくるから、そこの袋のヤツ食べていいぞ」

 と発令所から消えて、日向は一息つくと早速袋の中から一番高そうなのをチョイスして甘味を味わった。
 誰宛てだろうと、誰からもらった物だろうと、うまい物はうまい。
 そう感じながら空き箱をゴミ箱に投げ込んだ、その時。

「―――おはようございまーすっ♪」
「おはよう」

 大きなショッピングバッグ(と名乗る100円の紙袋)を両手に持ったマヤと、同じ袋をひとつだけ持ったリツコが出勤してきた。

「おはようございます博士、今日は夜までシンクロテストですか?」
「ええ、それもあるけど、遅れたのはこれを仕入れてきたからよ」

 紙袋から顔を出したのは、ハメハメハ大王がプリントされた、お土産に良く買われるおなじみの銘柄だ。

「その量だと『技術局一課』名義ですね?」
「そういうこと。日向君もいかが?」
「あ、後でいただきます」

 今、つい今さっき、ちょっと高そうな箱をひとつペロリと食べた直後だった日向は笑顔で辞退した。

「でも、それ全部ですか……ずいぶん多いですねぇ」
「えー、違いますよ日向さん、これは私個人のです」
「へっ、それ、両方、全部、マヤちゃんの!?」

 あの、18粒入りのアーモンド入りで換算すると、軽く100箱は入りそうな袋がいっぱいなのである。
 どれだけ大量に購入したのか、唖然とするばかり。

「そうですよ♪ アンケートに協力してくれたら日向さんにもプレゼントしますけどぉ……答えてもらえます?」
「アンケート?」
「はいっ、今がまさに旬のバレンタインデーに関する意識調査ですっ♪」

 にこぱっっっ!と7000ルクスの笑顔で宣告したマヤは、日向がやるともやらないとも言わないうちに、袋の中からごそごそと質問の書かれた紙を取り出すと、ボールペンを渡した。

「見栄を張らないで正直に書いてくださいね♪」
「は、はぁ……」

 釈然としないままペンを握らされてしまった日向は、まぁいいか、と紙に目を向けた。


 <Q1>
 お返しは必ずする(Y/N)

「うん……そんなにもらったことないけどね……」

 


 <Q2>
 『義理』制度はすぐに無くすべきだ(Y/N)

「うっ……無くしたら答えても貰えないってオチじゃないよな……」

 


 <Q3>
 菓子業界の陰謀に加担するのは悪である(Y/N)

「これは良く聞くけど、目くじら立てすぎだよな」

 


 <Q4>
 手渡し以外の手段で贈るのは迷惑なのですべきでない(Y/N)

「シゲルには悪いけど、オレはそれでも……無いよりは……」

 


 <Q5>
 『3倍返し』風潮についてどう思いますか?(自由回答・5点)


「ご、5点って何だ!?

 手が止まった日向が、質問はアリかな?と顔を上げると、マヤは紙袋から買ってきた品全てを取り出して、割れた物が無いかチェックしていた。

 そのラインナップを見た日向は愕然とする。

 もっとも下は10円。駄菓子屋御用達。
 次は80円のハート型。コンビニ御用達。
 そして200〜300円の箱モノがちらほら並び、稀に500〜1000円クラスの中箱があった。

 まあその辺りまでは予想の範疇。しかし次がスゴイ。

 ディスカウントショップに足を運んでも3000円はする海外の高級品がドン。しかもショッピングバッグ(を名乗る紙袋)に書かれた店の名は有名百貨店のモノなので、おそらく正価。つまり5000円以上。

 さらにまぁだその上があるっ!

 まるで高級紅茶の詰め合わせかと見まがうような木箱。そこにかけられた黄金のリボン。一分の隙もなく箱のド真ん中にしっっっかりと焼き付けられた由緒ありそうな紋章。
 日向のような庶民には噂でしか聞いたことも無いような最高級品。カカオの産んだ芸術とも、ブラウンの珠玉とも呼ばれるブランドがそこに実在していた。
 これは値段もさることながら、輸入量が非常に少なく、入手は大変困難だと聞く。
 今日のこの日なればこそ、大台を軽く叩き出しているのは間違いない。

 その豪華な壮観に、日向の脳は答えを弾き出した。

(あの木箱は本命用だとしても、5点を出せば5000円クラスって事かっ!)

 そして次の瞬間、ペンは独りでに走り出していた!

「男の側からは歓迎できない慣習だが、贈り物に対して相応の感謝があれば、自然にそうなってしまうのは当然だと思う。少なくとも俺はそうする」

 完璧だ。これで栄光の5点はオレの物だ。3倍返しはちょっと財布に痛いが…
 うんうん、と満足げにうなずく日向。

「あ、書けました? どれどれ……」

 ちらちらと回答を検分したマヤはにっこりと微笑むと、

「ふぅん、日向さんていい人なんですね♪ はい、ご協力ありがとうございました♪」

 お礼に、待ちこがれていた栄光で憧れの高級品の……

 ぽん。と手渡されたのは、

 木箱

 え、えええええええええっ!?

 我が目を疑う日向。
 これは幻の最高級品で、入手困難な最高級品で、ひとつだけ別格の最高級品で!

 絶対間違いなく大本命の最高級品でっ!!

「マ、マヤちゃん……これ、オレが貰っちゃっていいの……?」
「はいっ♪」

 10000ルクスの笑顔。

「本当に、オレでいいの?」
「はいっ♪ 日向さんが一番ですからっ♪」

 20000ルクス

「あ、ありがとうっ! 大事に食べるよっ! オレ…オレも前からマヤちゃんの事」
「あっ、勘違いしないでくださいね、義理ですから♪」

 50000ルクス

「へっ!?」
「義理です♪ でも2万円ですっ♪」

 100000!――200000!――

(しまった罠だっ! 嵌められたんだっ!)

 500000!――まだあがっていく!?――



 ――ボンッ!!



 日向の脳裏で、スマイル光度計が限界を超えて爆発した。



 そして、幽体の離脱した抜け殻を残して、マヤはアンケートを武器に、次なる「いいひと」探しに出ていくのだった。


彼の苦悩は一ヶ月間 つづく 

 
2001/02/12

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