もっとも多くのエヴァ小説に出演しているオリキャラ

written by Mikasa Dora  















 暗闇に浮かび上がるスポットライト。



 革張り肘掛け付きの豪華な椅子に腰掛け、すらりと伸びた足を組んでいる女性。





 紫煙を燻らせながらアンニュイな溜め息などついている。



 誰かを待っているようだ。











 ガチャリ。



 闇の奥で扉を開く音が聞こえた。



 バタム。



 カッカッカッ。




 真新しい革靴がタイルを蹴りつけて響かせる。












 スポット以外の明かりが無いため、ぼんやりとしか見えない長髪の男。





 傍らに用意されていた事務机に歩み寄り、手にしていた薄い本を置くと、パイプ椅子を広げて座る。



 ガタガタと座る位置を調整して、本を開く。





 最初のページに書かれた一文を確認すると、顔を上げた。







 女性と目が合う。



 にこやかに微笑む男。











「あなたが、もっとも多くのエヴァ小説に出演しているオリジナルキャラですか」



「そうよ」



 艶っぽさを感じさせる美声が答える。











「今までに何作品ほどに出演されたのですか」





「さあ……あまり多すぎて忘れちゃったわ」



「ではおおよその数で結構です」





「少なくとも百を下回る事はないと思うわ」



「そんなに多くの作品に?」





「ええ。もしかしたら青葉君よりも多いかもしれないわね」



 悪戯な微笑みを浮かべる女性。





 何故か青葉という名を聞いて引きつる男。





「あなたも見た事があるはずよ。どこかのサイトで私を」



 女性は煙草を肘掛けに押し付けて消すと、吸い殻を指でぴんと弾いて捨てた。





 革椅子についた焦げ跡を見て、男の顔が青くなる。



「小さい男」



 女性は鼻で笑う。
















 3度深呼吸をして落ち着きを取り戻した男は、ページをめくった。





「具体的には、どのような役で出演されたのか例をいくつかお願いします」



「そうねえ……一番はやっぱり科学者かしら」



「なるほど、それで白衣を着ているのですね」





「他にも教師やマッドサイエンティストもよくあるわね」



「性格的にはやはり現在のような冷たい印象が?」



「あなた失礼ね」



「あ、いや、すみません。台本にそう書いてあるもので」







「……まあいいわ。

 そうね……だいたい理詰めのキャラクターだけど、心無い人間ではなくて、自分を包み隠さず表現するのに慣れていない……そんなところかしら」



「なるほど。気を許せば可愛い人、ということですか」



「あなた……これ以上無礼な口をきいたら帰らせてもらうからそのつもりで」



「は、はい……失礼しました」



 刺すように冷たい目線を浴びて居すくんだ男は、その感情を押さえつけるようにページをゆっくりめくる。










「では好みのタイプを教えていただけますか」



「髭面で生きるのに不器用な故人の夫。

 でなければ純真で従順な職場の後輩。

 時々大学時代からの友人や、監督対象の子供に手を出す事もあるわ。子供の同級生も交えて……

 ……少し気が多いみたいね」



 自嘲気味に照れ笑いを見せる女性。





「あ、あの、俺なんかは」



 つい笑顔に見とれてしまった男は、動揺して本に書かれていない言葉を発する。





「それだけは、絶対に、死んでもイヤ」















「……え、ええと……」



 蒼白な顔で目線を漂わせていた男は我に帰ると慌ててページをめくった。





「では、いよいよ問題の核心について伺いますが」



「どうぞ」



「なぜ、あなたはそれほどたくさんのエヴァ小説に出演できるのですか?」



「勝手に出てるからよ」



「そんな事が可能なんですか!? ぜひ俺にも方法を教えてください! いやぁもう全然出番なくって!」







「シナリオからそれてるけどいいの?」



「いやそんなもんもうどうでもいいっス! お願いします! 出番欲しいんスよ〜〜〜っ!!」



 本を投げ捨てて机に両手をついて身を乗り出す男。



 立ち上がった拍子にパイプ椅子が倒れるのも気にしない。









 男の滑稽な様子に苦笑を禁じえない女性。



「残念だけど……あなたには無理ね」



「どうしてですか!?」



「……名前が悪いわ」



「どこがですか! いい名前じゃないっスか! 分かりやすいし! 一発で変換されるし!」



「それがいけないのよ……」



 女性はふぅ、と吐息をこぼすと、足を組み替えた。









「一度しか言わないわよ」



「ま、まま待ってください!」



 慌てて胸ポケットから手帳とボールペンを取り出す男。



「ど、どうぞ!」








「私は、エヴァ小説の作者の無意識部分に働きかける事で、名前を滑り込ませているの。

 だから著者が疲れている時、推敲が甘い時が狙い目ね」



「はあ、無意識ですか」



 無意識、とメモしながらしきりに頷く男。







「名前さえ書かれてしまえばこちらの物よ。

 あとはその小説の世界に出向いて、本物と入れ替わればいいだけだもの」





「本物……?」



「そう」





 女性の瞳がネコの目のごとくキラリと輝いたように見えた。











「でもね、入れ替わるのは簡単じゃないのよ。

 クスリを盛るくらいで済む時もあるけど、抵抗が激しい時にはあまり良くない手段を使う時もあるわ」



「何を……言ってるんですか……?」



 女性から妖気のようなオーラがたちのぼる。



 漠然と本能的な恐怖を抱きはじめた男は手帳を取り落とした。









「そして秘密は守られなければならないの……すべての作者が私の存在に気付いてしまえば、二度と出演できなくなってしまうもの……だからね」



 女性は椅子から立ちあがった。



 そして白衣の内側に手を入れて、一歩踏み出す。









「な、何をするつもりですか?」



「大丈夫。苦しみはないわ……すぐに楽しい夢を見せてあげる……ふふふふ……」



 どこにしまわれていたのか女性の手には抜き身の注射器が光っている。





 一歩、また一歩と近づいてくる女性の威圧感が男の心臓を鷲づかみにする。










 このままではまずいと感じた男は入ってきたドアに駆け寄りノブをひねる。



 ガチャ! ガチャガチャ!



「なんでだよ! なんで開かないんだよ!!」










「無駄よ。ここは私の世界……私が唯一意図的に書かれている空間」



 女性は血走った目でニヤリと笑う。







「開けてくれ!! 頼む誰か助けてくれっ!!」



 狂乱に陥った男はドアをバンバンと叩く。










「残念だったわね青葉君……せっかく出番があると思ったらこんな役で……」



「やっやめてくれっ! たったすけてっ! 死ぬのは……イヤだーっ!!」







 パシャン













「あら……弾けちゃった。せっかく実験に使えると思ったのに」



 つまらなそうに足元の水溜まりを見下ろす女性。








「もう聞こえてないでしょうけど、話を聞いてくれたお礼に教えてあげるわ」



 注射器を投げ捨てる。



 カシャン



「私の名前は……」
































 女性は君の瞳を見据えて笑った。
































「赤城リツコよ」



























1999.11.10 ver1.0 
「しまった!うちのSSにも出た事ある!」なご報告は三笠どらまでどうぞ。

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<お負け>

「碇指令というのも良く見るな、碇」

「副指令もな、冬月」

「……無様ね」

「でも人の事は言えないわよ。あたしですら『惣龍』にしちゃった事あるし」

「貴方の後ろにもニセモノが忍び寄ってるかも知れないわ」

「あんたはいいわよねぇ。本人なのにたくさんいるんだから」

「知らないわ。私は命令を推敲するだけだもの」

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