警告
この作品には地球侵略を企む宇宙知性体によって、人類の精神を破壊するための工作がなされている恐れがあります。
読んでいて身体に何らかの異常が発生した場合、万が一それが
トキメキ
であったとしても、すぐに読む事を中断して医師に相談するようにお薦めします。
尚、この作品を読んだ事によって肉体的・精神的その他いかなる被害を負う事があっても、作者は一切の責任を免除される事に同意できる方のみ、先を読むことが出来ます。
後悔しませんね? Y/N
YES
「「「「「「「「「「「「「「「ええええええええええええええええええええっ!?」」」」」」」」」」」」」」」
「みんなまだ、授業中なのよーっ!」
<発令所>
『総員第一種警戒態勢! 繰り返す! 総員第一種警戒態勢!!』
がなりたてるような、もしくは悲鳴にも近い絶叫アナウンスが、今日もここ、ネルフ本部に響き渡った。
発令所は言い知れぬ緊迫感に包まれる。
「……来たな」
冬月はひとりごちて唇を湿らせると、両手でみずからの頬をパンパンと叩いて気合を入れる。
不動の冬月副司令にここまでの行動を取らせるとは、よほど油断ならない状況が訪れたようだ。
「目標の現在位置は」
「現在、目標は……この真下です! もうそこまで来ています!!」
青葉のせっぱ詰まった声に、冬月の目が見開かれた。
「なんだと!? ……いかんっ、総員対ショック対ダミ声防御だっ!!」
副司令の指示が発令所に伝わるよりも早く、彼の背後で昇降機が動作した。
床の一部が開き、せりあがってくる人物。
彼こそ誰あろう特務機関ネルフ総司令。
そして再婚して幸せな家庭を築きつつあるお父さん。
ヒゲとメガネのハーレクインロマンスこと―――
「ヘロウ! ネルフのみんなっ!
今日も一日頑張って、世界平和に貢献するわよっ!!
打倒使徒! 打倒ゼーレ!!
絶対負けられないんだから、気合入れていくのよぉぉぉぉっ!!」
―――碇ジェニーその人である!
(ただし本名はゲンドウ・50歳もすぐそこ)
「ヘロウ! 冬月せんせっ、今日も元気そうね♪」
「お……おはよう碇……今日はまた…その、なんだ………す、涼しげだな」
今日はいつもよりちょっぴり気温が高くなるだろうという天気予報に従って、薄手の紫のキャミソールで決めてみた。もちろんミニ。
なぜ紫かと言えば初号機に合わせてコーディネイトしてみたからだが、別にそれはどうでもいい。
「似合いますっ?」
「あ……ああ……前衛的とでも言っておこうか……」
さらに手袋も貴婦人風に長いモノを、それも最高級の絹をふんだんに使用した贅沢な逸品なのだが、別にそれもどうでもいい。
「きゃはっ♪ うれしぃ〜〜〜っ! でも……ダ・メ・よ! あたしはもう人妻なんですから……いくらモーションかけたって、貞淑で拒んじゃって粛正なんだからっ♪」
「ああ……まかり間違ってもそんな気は起こさんだろうさ……」
しかも今日は何故か勝負を賭けているようで、メイクまでびしぃぃぃっと濃い目に決めているうえにメガネの色も紫だが、別にそれだってどうでもいいったらいい。
「まったまたぁ、そんなコト言ってぇホントはあたしにホの字なんじゃないのぉ? ……
いいんだぞ冬月。自分に正直になっても
…………なぁぁんてねっ♪」
「………ぅぅぅぅぉぉぉぉおおおおええええ
ええええ
―――」
その姿、まさに紫の悪魔。
見た者は等しく融けて、ひとつになってしまいそうな勇姿である。
そんな司令が居る高台から少し下の方。
「うううっ……私、もう耐えられません……」
目を堅くつぶって見ないようにしてはいるのだが、大天使級に慈悲の無いジェニーのダミ声だけで十二分に吐き気を催したマヤが、口元を押さえながら背中を丸める。
「耐えるんだマヤちゃん……きっと司令は寝起きで平静を欠いているだけさ……昼には元に戻るよ……多分」
ひきつった乾いた笑いを無理に作った日向が、ちっとも慰めにならない言葉をかける。
そして、傍らで平然とギターを引く真似というかイメージトレーニングをしている青葉を見やった。
「……シゲルお前よく平気だな……」
「あ? ああ、さすがに毎日だと慣れるみたいだなぁ」
「ウソでしょ!? どうしてあんな化け物に慣れ―――」
「しっ! 声が大きいよマヤちゃん! 司令に聞こえたらどうするんだ!」
「んんー???」
笑顔で冬月を滅ぼしかけていたジェニーの耳がぴくっと反応し、オペレータートリオの席を覗き込むように見下ろした。
邪眼にも匹敵するスマイルから発せられる異様な威圧感が、目を背けている3人にも否応無く伝わり、慣れたと言っていた青葉ですらも身体をガクガクと震わせる。
「ねぇ〜あなたたちぃ、今誰かあたしの悪口言わなかったぁ……?」
ニヤリ。
貴様らの考えなど全てお見通しだ!とでも言わんばかりの強烈な笑みが、さらに3人の正気度を奪って行く。
(ヤバイ……マジでヤバイよ……お、俺達の命もここまでか……ああ、葛城さん、最後にあなたと……ここでは書けないような数々の幸せを享受してみたかった……)
(せ、先輩……助けてくださいぃぃぃ……この独りで百鬼夜行みたいな司令を紐で括って家に持って帰ってくださいぃぃぃっ)
(さ……さすが司令ともなると存在感ってものが違うよな……俺みたいな出番の少ない三下とは違って、与える不安感も不快感も桁違いだ!! ……いいよなぁ……俺もあんな風に自己アピールしてみたいぜ)
考える事は三者三様だが、願いは同じ。
『ここから逃げ出したい』
ではなぜさっさと退職するなり、行方不明になるなりしないのか?
それは……出来ないからである。
少なくとも、ここネルフに彼女からを身を隠せる場所はない。
『彼女』とは誰か? それはもちろんこの人―――
ういーーーん。
ドアが開いて白衣を翻しながら金髪の女性が駆け込んでくる。
彼女は一段高い位置からニヤリとしているジェニーの姿を認めると、ぱっと明るい顔になって手を振りながらぴょこぴょこ跳ねた。
「ゲンちゃぁーんっ!」
「―――ああっ、リっちゃ〜〜〜んっ♪ もうっおっそいよぉ!」
「ごめんねぇ〜、もうシンちゃんったら私の選んだ服がかなり気にいらないって感じで〜〜、ぜんっぜん言う事聞いてくれないから、ちょっと
マジギレ
したら、ふたりとも気絶しちゃった♪」
「ええぇ〜〜〜〜っ!? ウッソ〜〜〜〜〜!? それってそれって結構ヤバくない?」
「そこはリっちゃんにお任せよ! すぐにミサトちゃんに来てもらってぇ、車に押し込んだから、今ごろお空の上を悠々飛んじゃってるって感じなのよねぇ〜〜」
「さっすがリっちゃん、もう
「かなり頭イイって感じよねぇ〜〜♪」
!
」
最後の部分で呼吸ぴったりハモったふたりは、直後身体をくの字に折り曲げる勢いで笑い出す。
それを見てしまった冬月の脳には現存するN2爆雷を全部投入したくらいの衝撃が走り、とっさに彼の防衛本能が幻覚を張って精神保護に走る。
「……ああ……ユイくん……会いに来てくれたんだな―――うう〜〜ん」
天井を見上げて両手を広げ、そのままばったり。
『―――お、おい大変だ! 副司令が毒気に当てられたぞ!』
『タンカだ! 早く持って来いっ!』
ついに精神の糸が切れて倒れた冬月は、青い顔をした職員によって医務室へ運ばれていく。
陰惨たる光景を視界の端に映しながら青葉は、呟くように抑えた声で同僚に話し掛ける。
「マヤちゃん、マコト……まだ俺たちの契約書は見つからないのか……」
「ああ、必死にやってはいるが……敵は赤木……いや碇博士とMAGIだからな……」
「そう簡単にはヤメさせてもらえないですよ……くすん」
ジェニー出現以来人材不足も悪化の一途をたどるネルフが、彼らのような優秀な手駒を逃すはずも無い。彼らを縛りつけておくために、わざわざ読解の困難な契約書を作り、詐欺ギリギリの手口でその身柄を確保しているのだ。
かくしてオペレータートリオは今日も吐き気・頭痛・めまい・ついでに使徒などと戦っているのである。
―――そして。
「やっぱりあなたって天才だわ、リっちゃん♪」
「そんなぁ〜、ゲンちゃんには叶わないわよぉ〜もうっ」
冬月など一切眼中になく、赤面しながらつつきあっているふたり。
その姿に、発令所中は沈黙していた。あるいは自我崩壊か。
「ねぇ〜ゲンちゃん……」
「なに? リっちゃん」
「あのねあのね……シンちゃんもレイちゃんも可愛いけど……やっぱり私とゲンちゃんの……」
「あたしと、リっ―――
ツコさんの?」
突然ジェニーの表情が笑顔でなくなったが、リツコは目線をそらしてうつむいているので変化に気づかない。
「愛の結晶が欲しいなぁ……って―――」
「そ、そうか……
む?
……な、
なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
」
ゲンドウは自分の破廉恥な姿に気づいて驚愕、ついつい絶叫してしまった。
その様子にリツコは小さく舌打ちをする。
「ああっ! もうっいいところなのにぃ〜どうしてそこで元に戻っちゃうワケぇ〜!?」
ゲンドウは目に見えてがっくりと肩を落とし、ゆっくりと首を横に振った。
「また俺は……アレになっていたのか。……いつも、済まないな……リツコさん」
「だからぁ、私のコトはリっちゃんって呼んでねっっていつも言ってるでしょ〜ゲンちゃん!」
―――碇ジェニー改め碇ゲンドウ総司令は、自分の性格がときどき180度変質し、女装して愉快に(そう感じているのはリツコのみのようだが)暴れ回るコトを恥じている。
「……だがリツコさん……」
―――しかし、その原因を作ったのが傍らに居るリツコ婦人であることを知らない。
「もう、ゲンちゃんったら照れ屋さんなんだからぁ! さ、いつまでもそんな格好してるわけにはいかないわよねぇ〜。……もう〜、不安な顔しなくても大丈夫よ! またいつものように私が証拠隠滅してあげるから♪」
―――ゆえにゲンドウ氏はリツコ婦人を『こんな異常な俺を優しく気遣ってくれるいい人』だと思っているのだ。だから求婚の承諾もしたわけで……まったく思うツボである。
「……済まない」
赤面しながら紫の色眼鏡を押し上げるゲンドウ。
彼の傍らに付き添って共に昇降機で降りていくリツコ。
ゆっくりと下がっていく彼らの姿。
―――ようやく発令所に平和が戻った。
安堵のため息があちらこちらから漂ってくる。
激しく打っていた脈拍も収まってきたところで青葉は、本日の予定を確認する。
「……ところで、今日はシンクロテストの予定が無いけど、やらないのか?」
「ああ、ドイツからセカンドチルドレンが来るとかで、葛城さんと、シンジくんとレイちゃんが迎えに行ったらしい」
「あ、それで今日は人が少ないんですね〜……あら? でも、今使徒が来たらどうするのかしら」
……気まずい沈黙。
「き、きっと来ないさ」
「そ、そうだよな……向こうさんだって、年中働いてるワケじゃないよな」
「でも来たらどうなるんでしょう」
……気まずい沈黙。
「サード……インパクト、ってヤツ……かな」
「でもほら、既に司令の姿がサードインパクトって言えない事もないし」
「そうですね……今は私たちの精神衛生を何とかするのが先決ですよね」
……気まずい沈黙。
「やっぱり、ここに居続けるのは自殺行為だと思う」
「逃げる……しかないみたいですね」
「……契約書を何とかしないと辞めるに辞められないぞ」
……気まずい沈黙。
次の瞬間、マヤと日向はコンソールに向かい、一心不乱にMAGIへのハッキングを開始した。
<ヘリコプターの中>
レイは海上に浮かぶ巨大な戦艦の姿にはしゃいでいた。
「ねぇねぇ見て見てシンちゃん! すごい大きい!」
レイもシンジも、リツコに「やっぱり初対面の印象が大切よねぇ〜♪ うん、やっぱりあなたたちにはこれが一番似合うわ♪」と押しつけられてしまった、おなじみアスカ型ひらひらワンピースを着ている。
形は同じだが、色がレイは白、シンジが薄い黄色と違う。
「ほんとだ、随分大きいね……」
家出の一件以来、今だにシンジの髪は金色である。
「もう、せっかく仲間が増えるのにぃ、シンちゃんったらどうしてそんなに暗いのぉ〜? 私とお揃いの服がそんなにイヤなわけぇ〜?」
「そうじゃないよ……でも……僕、男なんだよ……」
シンジに戻って女装はやめたのだが、リツコが明るく(おかしく?)なってしまってる時には、女の子の服を着せられてしまうのだ。
シンディになっている間は気にならなかった(むしろ愉しかった)が、今では強烈に恥ずかしい。
「いいじゃない、そんな細かいコトは! 私はシンちゃんと同じ服……うれしいよ」
「レイ……」
「あはぁ〜赤くなったぁ、かわいいぃ〜〜っ♪」
レイにきゅっと抱きすくめられてますます真っ赤になってうつむくシンジ。
騒ぐふたりを横目にミサトはため息をついた。
今朝がたリツコに呼び出されて言い渡された「司令からの勅命」が脳裏によみがえる。
『シンジくんとレイちゃんを連れてセカンドチルドレンの迎えに行くこと』
『行くのはいいけど……ふたりは?』
『今、あの……ちょっと気絶してるけど、運び出してあなたの車に乗せてくれる?』
ドイツから来るセカンドチルドレンの迎えに行くのに、どうして大事なパイロットをふたりとも連れて行かなければならないのか……。
司令の命令だから仕方なく連れて来てはいるが、ミサトの表情は暗かった。
「ねぇ葛城さん、あの空母、名前なんていうんですか〜?」
「オーバーなんとかって言ってたわよ」
レイの問いに投げやりに答えるミサト。
「オーバー……さん?なぁんてね♪(くすくす)葛城さんのコトかなぁ〜?」
「寝てる間に口の中レバ刺しでいっぱいにして欲しい?」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ、もう言いません〜〜〜〜〜〜っ!」
シンジの影に隠れてブルブル震えるレイ。
シンジはくすっと笑ってその身を抱き寄せ、頭を撫でる。
「それでミサトさん、セカンドチルドレンってどんな人なんですか?」
「んー、そうねぇ……一言で言えば……シンディかしら」
「……ふぇ?」
「ほらぁ、シンちゃん今でも時々発作的に人格変わるでしょ? その変わった時の『シンディ』にそっくりなのよ」
「ええっ、ホントですか葛城さん!?」
身を乗り出すレイの姿に、ミサトの目がすぅっと細くなる。
「あら、やっぱりレイは気になる? そうよねぇ〜なんたってシンディには押し倒されたコトもあるもんねぇ〜♪ それに似た性格っていったら気にもなるわよねぇ〜」
「ミ、ミサトさんっ!!」
「おやぁ〜? どうしちゃったのかな、ふったりとも赤くなっちゃってぇ〜……んっふふふ、あたしが何にも知らないと思ったら大間違いよん」
きしししと笑うミサト。
ヘリは国連軍が誇る老朽艦「オーバー・ザ・レインボウ」に降りていった。
<甲板>
「すごいすごいすごぉ〜いっ! やっぱり相田くんも誘ったほうがよかったんじゃなぁい?」
レイはそびえる艦橋や、居並ぶ艦載機に感激した様子で、ぱたぱたと走り回りながらシンジに問いかける。
微笑みながらレイを眺めていたシンジの表情が苦笑に変わる。
「ケンスケは……誘っても来なかったと思うよ」
「えぇ〜っ、どうして〜? ……あ、もしかしてまだ相田くん私たちのコトで『裏切ったな碇! 俺たちの友情を裏切ったなぁっ!』とか言ってるの?」
「う、うん……どっかで見てたの? 一字一句ぴったりだよ……」
「ホント? な〜んとなくそんな気がしただけなんだけどねぇ♪ ……あ、ねぇシンちゃん! あの人かなぁ」
周囲の軍人さんとは雰囲気の違う人物を見つけたレイが、シンジの腕を引いて指をさす。
そこに居るのは、髪の毛を後ろで束ねていて、ワイシャツの第一ボタンが外れたままで、そでをまくっていて、ネクタイも一応ぶらさがってる程度に着用して、無精ヒゲのない人物だった。
「よ、葛城、久しぶりだな」
ニヒルな微笑を浮かべたまま、その人物は軽く手を上げる。
ミサトの目が見開いたまま固まった。
「あ……
あ……
あんた……アスカ!?
」
「ああ、苦戦してるって聞いて、応援に来てやったんだ。まずは再会を祝して一杯どうだ?」
そう告げる人物こそ、今日ミサトたちが迎えにきたセカンドチルドレン。銀河系最強のナンパ師、加持リョウジに徹底指導を受けて性格が加持化したアスカだった。
呆然としたまま、ぴくりとも動かないミサトをレイがつつく。
「ねぇねぇ葛城さん? 凍ってないで紹介してよぉ」
「……へ? あ、ああ、ごめん。エヴァンゲリオン弐号機の専属パイロット。セカンドチルドレンの惣流―――」
その瞬間、一陣の風が舞い、レイとシンジのスカートをぶわさっとめくる。
「「きゃぁっ!」」
同時にスカートを抑えて顔を赤らめるふたり。
「……白に、水色か」
別に見ようと思ったわけじゃないが、何となく目に入って、何となく呟くアスカ。
レイとシンディがきっ、とアスカをにらみつける。
そしてふたりの掌が閃く。
パンッ!!
パンッ!!
「いっ……いったいわねぇ! なにすんのよっ!!」
両方の頬に赤く紅葉のついたアスカが拳を振り上げて非難の声を上げる。
呆気に取られるシンディとレイ。……シンディ?
いつの間にかシンジはシンディに変化してしまっているようだ。
「あ……あんた、そんななりして女なの?」
「ご、ごめんなさい……私、男の子だと思って顔に……」
「あ〜あ、元に戻っちゃった。やっぱり一週間程度じゃ、加持さんみたいになるのは無理か」
腕組みをしてひとりごちるアスカ。
どうやら彼女の改造は不完全だったようである。
リツコさんの弟子
セカンド
written by 三笠どら
「で、ミサト、噂のサードチルドレンてのはどこなの? ……見たところ来てないようだけど」
「へ? ……あ、ああ、彼が、初号機パイロットでサードチルドレンの碇シンジくんよ」
「ああもうっ、何回言ったら分かるのよ!? あたしはシンディだってば!」
「え、あ、あれ? いつの間に変わったの……?」
「ちょぉっと待ちなさいよ! あたしが聞いたところによると、サードは男だって話なんだけど!?」
「だから……彼がそうなのよ」
「はぁ!? 何わけわかんないコト言ってんのよ!? これのドコが男だってのよ!」
「コレとは何よ失礼ねっ! あたしにはシンディっていう母さんに貰った立派な名前があるんですからねっ!」
「はんっ、黒い眉毛して何がシンディよ! だいたい何? その格好。そういう服はね、あたしみたいなグラマラスな美少女が着てはじめて様になるもんなのよ!」
「あっ、それは私も聞き捨てならない発言だわっ! くたびれたサラリーマンみたいな風体のあなたにはそんなコト言われたくないわよねぇ〜シンちゃん?」
「でもちょっとカッコいいかも……」
「うっそぉ!? シンちゃんてばこんな変態がシュミなわけぇ〜?」
「ち、違うのよレイ! あたしはこんなおっさんくさいのに興味ないんだけど、あたしに植え付けられた何かの意志がくたびれたおじさんを求めているのよ!」
「おっさんおっさん言わないでよね! あたしのこの姿は敬愛する加持さんから借り受けたモノなんだから、馬鹿にしたら許さないわよ!」
「誰よ加持さんって? ……あっでもなんかその名前にココロときめくものがっ……ああ、何かしらこの胸が締めつけられるような奇妙な感覚は」
「……まっ平で締めつけられるモノもないじゃない」
「うるさいわねぇ! 男なんだから無くても仕方ないでしょう!?」
「げっあんたホントに男なの!?」
「だからさっきからそう言ってるじゃない……シンジくんは男の子だってば」
「シンディよっ!」
「そんな、どう見たって……ちょっとごめんね」
「きゃぁっ! やっ……」
「わ、わ、わ、私のシンちゃんになんてコトするのよぉ〜〜〜っ!!」
「……へぇ、ホントに
男
なのね」
「―――レイぃ〜〜〜っ、あたし、あたし汚されちゃったよぉ〜〜」
「大げさねぇ、これくらいのコトで」
「大丈夫、大丈夫だよ、シンちゃんは私がもらってあげるから」
「あの〜盛りあがってるとこ悪いんだけどね、あたし艦長に挨拶してくるから。取りあえずここだと邪魔だし、中入っちゃわない?」
<空母内の食堂>
テーブルにトレーが並べられ、アスカ、シンディ、レイが席に着いている。
ミサトは「シンジが女装でレイが明るいだけでもツライのにアスカまでが男装」という異常な現実に耐えられなかったようで、レイ、シンディの紹介をさっさと済ませると、逃げるように艦橋へ引きこもってしまった。
きっと今ごろはアスカの師匠たる加持と対面して悪態でもついているのだろう。あるいは何故アスカがああなってしまったのかを問いただしているのかもしれない。
とにかく、子供たちだけで占有している室内に話し声はなかった。
シンディは皿の端にあるミックスベジタブルをつつきまわしているが一口も食べておらず、時折アスカの方をちらちら伺っては下を向く、を繰り返している。
レイは湯気でも上げそうに不愉快な表情のまま、ひょいぱくひょいぱくとカレーを食べている。……ただし肉は除けているようだ。
アスカは頬杖をつき、値踏みするかのようにレイ、シンディを観察していた。
―――不意に何かを思いついたのか、目を細めたアスカは臨席の少年に声をかける。
「……で、シンディ、だっけ? あんた今つきあってるやついるの?
まさか、男の恋人が居るんだったりするとか?」
その口調はシンディにと言うよりはむしろ、レイに向けて放たれたような、揶揄の響きが含まれていた。
ガタン。
シンディが口を開く前にレイが立ち上がり、机に手をついて身を乗り出す。
「ヘンなコト言わないで! シンちゃんには私っていう可愛い女の子のフィアンセがいるわよ!」
「へぇ、そうなんだ。……ま、でも婚約ぐらいならいつでも解消できるわよね」
「! あなた……何考えてるの!?」
「さぁ?」
底の知れない不敵な笑みを浮かべるアスカ。思わぬライバルの出現を感じて動揺するレイ。
アスカが何を言ってるのかわからず呆然としている鈍感シンディ。
アスカは鋭い視線を投げかけてくるレイなんて歯牙にもかけずに、優雅な動作でストローを口にする。
その仕草もレイには気に入らない。
(な……なに!? なんなわけこの女っ! 急にオヤジみたいなカッコして現れたと思ったらシンちゃんを○○呼ばわりするわ、私たちの幸せ〜な未来を踏みにじろうとするわ、おまけにこのすました態度! こんなのが近くにいるだけでシンちゃんにも私にもかなり悪影響ありって感じだわっ!)
「シンちゃんは絶対にあなたなんかに―――」
青白い炎を背負ったレイが、碇君は私が護る宣言をしようとしたその瞬間。
―――ドゴォォォォォォォン!
激しい音。衝撃で艦内が揺れた。
「爆発?」
アスカの眼差しが険しくなる。レイもまた。
「外みたい。行ってみよ、シンちゃん!」
<海の見える艦上の通路>
巨大なエイの様な形のモノが巡洋艦の艦橋を破壊しているところへ3人が現れる。
壮絶な破壊音。飛び散る水飛沫。
「―――使徒!?」
「どうしてこんなところに!?」
乗り越えて落ちるのではないかと言う勢いで策に寄りかかって、身を乗り出したシンディとレイが叫ぶ。
アスカは彼らより数歩下がった位置で、対照的に冷徹な眼差しで使徒を見据えながら眉根を寄せる。
「ふ〜ん、あれが使徒か……なんか大きいばっかりで不細工ね」
水中を走る使徒の影。
駆逐艦から発射された魚雷が巨体にぶち当たるが、水柱を上げるばかりで一向に効果なし。
「ミサトに知らせないと!」
「そうね、急ごうシンちゃん」
「―――ちょっと待つんだ」
駆け出そうとする二人を呼び止めるアスカ。声のトーンが低く落ち着いたものに変化している。
「葛城への報告はシンディだけで充分だ。レイ、一緒に来てくれ」
「な、何よ急に偉そうにして―――」
「時間が無い、説明は後だ。シンディ、葛城によろしくな」
「やっ、ちょっと離してよっ! ああぁっシンちゃ〜〜〜んっ!」
アスカに腕を引かれ連れ去られていくレイ。
「……ちょっと強引なところもかっこいい……」
モデルにした人間が悪かったのか、アスカの背中を見送りながら、胸を高鳴らせるシンディだった。
<艦内の階段の踊り場>
「悪い、これしか無いんだ。着替えてくれ」
「これ……あなたのプラグスーツ?」
「ああ」
「でも……男物じゃない?」
アスカに渡されたスーツが、色こそ赤だがしっかり紳士用であることに戸惑うレイ。
「君の方が小柄だから、きつくはないはずだ」
テキパキと服を脱ぎながら答えるアスカ。
脱いでみればやはり女の子の身体であり、レイは余計に違和感を感じて苦笑を浮かべながら頬をかく。
「いや、そうじゃなくて……」
「俺と揃いのスーツは着たくない、ってことかい」
アスカはレイに目も向けず、さっさとプラグスーツを着用し終える。
「そう言うのでもなくて」
「じゃあ早くしてくれ。重ねて言うが、時間が無い」
カチっと手首のスイッチを押すと、シュゥゥと空気が抜けてスーツがアスカの身体にフィットする。
しかし密着したスーツが描き出すラインは、アスカの持つ自然のそれとは少し違う印象に見えた。妙な言い方を許してもらえるならば、男らしい、といった感じだ。
よもやとは思うが、上げ底にでもなっているのだろうか。
「―――アスカ、行くぞ」
真剣な眼差しで静かに気合を入れたアスカは、レイを振り向いて唖然とする。
「なんだ、まだ脱いでもないのか」
「だ、だって……」
「……手伝ってやるよ」
「えっ、ちょっと……」
躊躇するレイの服を手際良く剥いでいくアスカ。同じ型の服を持っているのだから、扱いも難くない。
「やっ……やめてよ、自分でできるわよ……」
「なら俺に脱がされるのを待ってたってことかい?」
悪戯っぽい微笑みを浮かべるアスカ。その整った顔立ちから溢れるパワーは、至近距離ならばレイですら見とれてしまうほどの威力だ。
「……良ければ脱いだ後、の手伝いもさせてもらうけど」
不謹慎な発言でレイの頬に血が登る。
「ふっ、ふざけないで! シンちゃんの次は私!? あなた女なら……じゃなくて、人間なら誰でもいいの!?」
非難しながらも抵抗はしておらず、既にブラの留め金まで外されているレイ。
アスカはレイの耳元で囁く。
「それは心外だな。俺が興味を持っていたのは、はじめから君の方さ」
「う、うそよ!」
「本当だ。俺が彼に何らかの感情を抱いていたとすれば、それは君のような美人の側にいつも居られるという立場への嫉妬心だけさ」
レイは知らぬ間に自分が壁際に追い詰められている事に気付いて動揺した。
「綺麗な瞳だ。ずっと見ていたくなるな。そして……ずっと俺を映していて欲しいとも思う」
「……いや、やめて……」
逃れようとするレイ。
でもその表情は満更でもないようで、白い頬にほんのり差す紅が艶やかだ。
アスカの手はレイの髪を撫で、そのまま頭部を抱え込むと、ゆっくりと距離を縮めて行く。
レイちゃん大ピンチっ、もしくはいいぞそこだっ、な場面だがその行為は、飛びこんできたシンディの声によって成就する事無く打ち切られた。
「―――あっ、あんたたちなにやってんのよっ!? お……女同士で……気持ち悪い……」
「シンちゃん……!」
目撃した場面が場面だけに見たほうも恥ずかしいのだろう、頬を上気させているシンディの姿。それを観とめたレイは真っ赤になってアスカを突き放し、うつむいたままもじもじと居心地悪そうに縮こまっている。
ちっ、と小さく舌打ちしたアスカが、ジト目でシンディを邪魔者扱いしつつ言葉を放る。
「……あんたミサトのところへ報告に行かなかったの?」
「行ったわよ! そしたら、こっちはいいからレイの救出に行ってやれって言われたのよ……」
シンディの言葉が意外だったのか、アスカはほう、と感心した表情を見せた。
「さすがはミサト……加持さんの行動パターンは把握済みなのね……ま、次のチャンスを待てばいっか」
小声で呟き、足元のバッグからもう一着、プラグスーツを取り出してシンディに放る。
「あんたもそれ着て。弐号機で出るわよ」
「あ……うん」
ころころ性格が変わる忙しい人だ、とシンジは思った。無論、自分の事は心の棚の上である。
<空母艦橋>
シンディから連絡を受けたミサトは、非常時だからということで、頭の堅い艦長から指揮権を奪い取って上機嫌だった。
まあ機嫌がいい要因はそれだけでなく、ここでばったり顔を合わせてしまった宿敵加持リョウジが早々に「急ぎの使い」とやらで居なくなってくれたお蔭でもあるのだが。
『オセローより入電。エヴァ弐号機、起動中』
アナウンスが流れるとますます笑みを深めて大きく頷く。
「いよぉーし! ―――アスカ、弐号機はB型装備のままだから落ちないように注意して。その他の判断は任せるわ」
『OK!……っていい加減な指示ねぇ』
アスカの呆れた声が返ってくるが、ミサトの面の皮はATフィールドより厚いので全く効果無し。
『ま、足引っ張られるよりはいいか。―――エヴァンゲリオン弐号機、発進します!』
被せられていたシートをマントのように纏って立ち上がった弐号機は、甲板に用意された電源を装着すると、たたーんと戦艦を跳ね回り使徒へ近づいていく。
「へぇ〜……さすがアスカ、趣味は変わってても才能は天下一品ねぇ……」
一緒にシンジとレイも乗っているのだが、そんなことはすっかり忘れて、弐号機の軽快な動作に感心するミサト。
プログナイフで使徒がズババババッと裂断されるまでにかかった時間は3分にも満たなかった。
『どうミサト! あたしの実力は!!』
「う〜ん……なんか盛り上がりに欠けるわねぇ〜」
快勝したのに何が不満なのか、不謹慎な呟きを漏らすミサトだった。
<ゲンちゃんのお・へ・や>
「波乱の船旅でしたよ。まさか海上に使徒が現れるとは……やはり、これのせいですか?」
薄ぐらい中にぼんやりと浮かぶ加持の姿。
対面するはゲンドウ。着席し手を組んだ姿からは、まさかこの厳つい男が日頃スカートを翻してはしゃぎ回っているなどと想像もつかない。つきたくない。
「……」
答えない、動かないゲンドウ。
加持は厳重にロックされたアタッシュケースを開いてみせる。
中には出来損ないのアンモナイトの化石の様なものが、琥珀色のキューブに閉じ込められている。
「硬化ベークライトで固められてますが、間違いなく生きてます。
最初の人間、アダムです……が、それはどうでもいい事ですね」
ケースを閉じながらニヒルな笑みを見せる加持。
「今一番の問題は、どうすれば職員達から冷たい目線を浴びずに済むか、でしょう?」
「……何を言っているのか分からんな」
勉めて平静を装っているが、ゲンドウの口調には動揺が見え隠れしている。
そこらの馬の骨ならばともかく、加持にはその程度のスタイル作りは通用しない。
「人の趣味に口出しをするつもりはありませんが、中学生のお子さんが居るというのに女装はどうかと思いますよ」
ゲンドウの顔色が蒼白に変わった。
情報操作が完璧では無かったと言うのか。この男はどこまで知っているのか。
そして、絞り出すように呟く。
「……要求は何だ」
「おっと、そんなつもりで言ったんじゃありませんよ。ただ俺は……これからも楽しく働いていきたいだけです」
わずかな間。
「……分かった。我々の障害にならない限りは、何をしても目をつぶろう」
「ありがとうございます」
一瞬だけ真顔を作り、軽く頭を下げる査察部所属の内務省調査部員。
すぐに元の薄ら笑顔に戻った彼は、第三者に聞かれる恐れはないにも関わらず、デスクに顔を近づけて声をひそめる。
「お礼と言う訳じゃありませんが、ヒントをひとつ差し上げますよ。
……木の葉を隠すなら、森の中です。―――では失礼します」
加持の姿が見えなくなっても、ゲンドウは動かなかった。
何事か思案している様子。
そして、しばらくの後。
「……なるほど。その手があったか」
暗がりでゲンドウは、ニヤリと笑った。
<後日の発令所>
ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
「やったぁ! 青葉さんっ日向さんっ! ついに先輩のプロテクトを破りましたぁ!」
モニターに映る契約記録。これさえ抹消すればオペレータートリオは晴れて自由の身である。
満面の笑顔で臨席の同僚を振り向くマヤだったが、その視線の先には空席だけがあった。
「……あらぁ? 青葉さんは? 日向さんもどこ?」
マヤはひとりごちてきょろきょろと周囲を見まわすが、どこにも見当たらない。
ふぅ、と残念そうに溜め息をついたマヤは頬に手をあてて呟く。
「勝手に消しちゃっていいのかしら……でも、もしお仕事続けたいんだったら悪いし……」
たまたま青葉と日向が居ないだけで他の職員は周囲に居る。
しかも大音量で鳴り響いた警告音と
『防壁突破』
と大きく表示されたモニターをほったらかしにしているために、かなり注目を集めているのだが、全く気付かずに悩み続けるマヤ。
ひとしきり考えて、んー、やっぱり消そう!と決意したマヤが、削除キーを押そうとした瞬間。
『総員第一種警戒態勢! 繰り返す! 総員第一種警戒態勢!!』
がなりたてるような、もしくは悲鳴にも近い絶叫アナウンスが、今日もここ、ネルフ本部に響き渡った。
発令所は言い知れぬ緊迫感に包まれる。
「ああん、こんな時に司令が……どうしようどうしよう……」
マヤは驚いて立ちあがり、挙動不審に右往左往している。
逃げようか逃げまいか迷っているのだ。
そこに欠伸をしながらミサトが現れる。
鳴り響く警報にも動じない。
「か、かつらぎさんっ!」
「ふぁ〜〜〜おっはよ。ん? 今日はトリオじゃないのねぇ」
「そんな事言ってる場合じゃないですよっ! 来るんですっ!」
「来るって、なにが?」
「何がって……ああっ、もうそこまで来てる! どうしたらいいのっ?」
せっぱ詰まった声を上げるが、結局逃げる勇気が持てず席につくと、目を堅く閉ざして耳をふさぐマヤ。
「どーしたの?」
何人かの職員がトイレなどへ非難していく中、ミサトの背後上方で昇降機が動作した。
床の一部が開き、せりあがってくる人物。
彼こそ誰あろう特務機関ネルフ総司令。
そして再婚して幸せな家庭を築きつつあるお父さん。
ヒゲとメガネのカナディアンロッキーこと―――
「…………」
(無言でもかなりの威圧感を誇る)
―――碇ゲンドウ氏である。
今日は珍しく普通のようだ。もしかすると奥様がJA視察に出張中である事と関係があるのかもしれない。
「あら、今日は司令が人間だわね」
落ちついた口調でとんでもなく的を得た意見をこぼすミサト。聞かれなかったことを天に感謝すべきだろう。
ゲンドウはメガネを押し上げながら、普段出さないような鋭い声で指示を出す。
「伊吹ニ尉。緊急回線を開いて、全ての職員に私の声が聞こえるようにしろ」
「は、はいっ!」
ぴったり耳を塞いでいた手を貫いて聞こえたゲンドウの声に、マヤがびくっと身体を硬くする。
恐る恐る振り向くと、目に入るゲンドウの姿が
男装
である事にちょっとびっくり。
そして緊急回線をつなぐ際、誤操作でプロテクトを復活させてしまう。
「あっ……………………2週間もかかったのに……(しくしく)」
『伊吹ニ尉。映像を8番につなげ』
「は、はいっ!」
スピーカーで増幅されたゲンドウの声に怯えながら作業を進めるマヤ。
「司令は何をするつもりなのかしら……?」
気のせいかニヤニヤしながら指示を飛ばしている司令を見て怪訝そうに首を傾げるミサト。
ゲンドウは咳払いをひとつすると、メインスクリーンを見ながら、何かを待っていた。
スクリーンは真っ暗。
何も映っていないのかと思えばそうではないらしい。フレームの端のほうにかすかに懐中電灯のような明かりが見えている。
『……ではネルフの諸君に、新たな同志を紹介しよう。
作業中の者も一時手を休めて手近なモニターに注目して欲しい』
ゲンドウの言葉が引き金になったかのように、画面に変化が生じた。
暗かった画面に3本のスポットライトが灯り、3人の人影が逆光によりシルエットとして映る。
「……まさか」
ミサトの本能が危険を感じて警告を発し出す。けたたましく。
けたたましく!
『まず一人目は作戦司令部作戦局第一課所属、二尉。
日向アリス!!
』
右端の人物を照らしているライトが角度を変え、カメラがズームイン。
そこに居るのは、昨日まで……いや今朝までは日向マコトだった人物。今やその姿は無残に変えられていた。
一言で表すならそれは……
不思議の国のアリス。
あと3日の命です、と言われたら納得してしまいそうに顔色の悪いマコト……いやアリスは、溢れる涙を流れるままに任せて立ち尽くしていた。
そして何事かブツブツと呟いている。
『私の猫はどこ……? 私の猫はどこ……? 私の猫はどこ……?』
ミサトもマヤも画面を見つめたまま、口を閉じる事も出来ず呆然と停止する。
ゲンドウは満足げに頷きながらニヤリと笑みをこぼす。
『次に二人目は中央作戦司令室所属、二尉。
青葉アン!!
』
一端引いたカメラは、左端の人物を照らしているライトが角度を変えるのに合わせてズームイン。
そこに居るのは、昨日まで……いや今朝までは青葉シゲルだった人物。今やその姿は無残に変えられていた。
一言で表すならそれは……
赤毛のアン。
自慢のロン毛は三つ編みにされてしまっている。
さすがは世界中の少女趣味が結晶して生まれたと言われるアンの姿。シゲル……いやアンの心を蝕みつつあるようで、時折あさっての方向を見上げては―――
『マリラ、あたしはちっとも変わってないわ。
あたしがどこへいこうと、外側がどんなに変わろうと、ちっとも違いはないのよ。
毎日毎日、日一日とマリラとマシュウ小父さんと、このなつかしいジオフロントが好きになる一方なのよ』
―――などと呟いている。もう長くはあるまい。
「葛城さん……これってまさか司令の……」
「ええ、おそらくそうだわ。司令が孤立を恐れて無理矢理仲間に引き入れたのよ……」
「そんな、ひどすぎます! そこまでして女装がしたいの!?」
「やっぱり最後の敵は同じ人間か……」
『そして三人目はNERV副司令!
冬月野うさぎ!!
』
「それはあたしの……!」
「……あたしの、何ですか?」
「えっ、あっ、な、なんでもないわっ!!」
再び三人が映るように引くカメラ。スポットライトが消え、暗くなる画面。
一瞬の間を置いて三本のライトは中央の人物に集中した。カメラはズームイン。
そこに居るのは、昨日まで……いや今朝までは冬月コウゾウだった人物。今やその姿は無残に変えられていた。
一言で表すならそれは……
セーラームーン。
(しかもスーパー)
「……ううっ(吐き気を催して口を押さえる)」
「あ……悪夢だわ……」
スクリーンの中の冬月は、レオタードのようなセーラー服のような衣装を着せられ、カメラを睨みつけている。
その鋭さはまるで、碇ゲンドウを呪い殺さんばかりだ。
だがゲンドウはその視線を平然と受け止めて、あまつさえニヤリと笑顔さえ見せる。
『良くお似合いですよ、
冬月野
先生。
これからもネルフと
私のために
力を貸してください。
では
セーラー冬月
また逢おう。アデュウ』
これでいつ発作が起きてジェニーになっても恥ずかしいのは自分だけじゃないから安心である、と判断したゲンドウは上機嫌で昇降機へと移動。
既に精神汚染によって壊滅状態の発令所を後にする。
沈んでいくゲンドウの姿。
以上をもって
「木の葉を隠すなら森の中作戦」
は完了した。
「……………」
「……………」
放心したままのミサトとマヤが現世に戻ってくるまでには、その後4時間を要したと記録されている。
「……ぐすっ……ひっく………」
ようやく正気を取り戻したが、忘れる事が叶わぬほど凶悪な破壊力を持つ記憶にさいなまれて泣き出すマヤ。
その傍らではがっくりと両手をついたミサトが吐きそうな顔をしている。
「……気持ち悪い……」
終劇
<余りに気持ち悪いので口直しにワンモアファイナル・学校>
第壱中に転入してきたアスカは男子の制服を着ていた。
「洞木ヒカリさんか……君にぴったりの可愛い名前だ。ヒカリちゃん、って呼ばせてもらっていいかい?」
「あの……惣流さんって……その……」
「ああ、女だけど」
「「「「「「「「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」」」」」」」」
「そう、女同士仲良くしようじゃないか……不潔な事なんて、何もないんだ」
「あ、あの、手を……手を離してくれませんか」
「放課後のスケジュールにオレの名前を入れてくれたら、考えなくもない」
逆にシンジは女子の制服を着せられて来ていた。
「見てよシンちゃんっ、あの女今度は洞木さんにちょっかいかけてるっ! やっぱり女なら誰でもいいんだわっ! もうかなりヒドイ浮気者で見てて腹が立つって感じよねぇ〜!」
「あのねレイ、その言い方だと自分だけ見てって言ってるみたいに聞こえるよ」
「ふぇ? ……あ、え、ちっ、違うわよっ! そんなんじゃないってば!」
「そこで赤くなっちゃったら、そうです、って言ってるようなもんじゃないかなぁ」
「私はっ! ……私はシンちゃんだけが………シンちゃんだけと……ひとつになりたい」
「レイ………あ、あたしもよ」(恥ずかしかったのでシンディに逃避している)
トウジはいつもの黒ジャージ姿で世を儚んでいた。
「転校生は美人やちゅうたのは誰や」
「美人じゃないか……変わり者みたいだけど」
「変わりすぎじゃい! しかもイ、イインチョに手ぇだしとるやないかい! た、ただでさえ貴重な独り身の女子が絶滅してしまうかもしれんのやでっ!?」
「(……それはお前がぐずぐずしてるからだろ)」
「なんか言うたか!?」
「いーや、何も。……オレは写真が売れれば別にいいけどね。いやぁ、予想を裏切って女子からの注文が多くてさ、今まで綾波・碇と男性客中心だったのが、これで新たな客層を相手に益々繁盛間違いなしで―――」
「アカンっ! やっぱりイインチョはお前に渡されへんっ!! 惣流っ! ワシと勝負やっっっ!!!」
老教師は今日はトリップしていなかった。
「あのーみなさん、まだ授業中なのですがねー……………仕方ありませんねー、セカンドインパクトの話でもしましょうか……もう飽き飽きなんですけどねー………」
ガラス窓が融解しそうなほどの熱線が降り注ぐ人類の最後の砦第3新東京市は、
ネルフ本部を除いておおむね今日も平和なのだった。
ちなみにゲンドウは出張から戻った細君にこっぴどくしかられて、翌日には女装命令を解除したそうだ。
ということは……リツコの常識は、旦那と息子以外には働いているのだろうか……?
とかくこの世は謎だらけである。
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