よくきたな。私がネルフ司令碇ゲンドウだ。

ついにこのシリーズも私の人気で3作目を数えるに至ったわけだが(※違います)

シナリオ開始の前にモニターの前の良い子の皆に命令だ。


お前が鋼鉄のガールフレンドをやるんだ。

なに、買ったはいいがやる気がしないだと?

やるなら早くしろ。
持ってなければ買え!


そして、SSを読む時は部屋を明るくして、画面から離れて読め。

ではリツコさんの弟子メタルスの始まりだ!(ニヤリ)









前回毒が強すぎたため
何人か病院に担ぎ込まれたらしいので
今回はおとなしめです












 シンジは諸処の理由により、両親と別居せざるを得なくなった。

 きっかけは、左右合体使徒との戦闘に巻き込まれ、せっかく家族3人+ふぃあんせ♪の幸せな生活をお約束する新居が、無残に破壊されてしまったから。
 引っ越すに際し、少し問題が起きた。



<一週間程前の暗くて広い碇司令の総務室>

 ゲンドウはシンジを呼び付けると、こんな事を言った。

「シンジ、私とリツコさんは万が一を考慮してジオフロントに移り住む事にした。お前は学校があるから地下生活という訳にもいかないだろう。葛城一尉の住む部屋の隣を押さえておいた。そこでレイと暮らせ」
「……え? レイと……ふたりで?」
「嫌だと言うならセカンドとレイ、お前と葛城一尉と言う組み合わせにするが」
「そんなのダメだよ!」

 加持風味の入ったプレイ…ガール?アスカの姿を思い出し、さらに彼女がレイに目を付けている事も連想したシンジは音速で却下する。それをレイとの同居の承諾と取ったゲンドウはニヤリと笑う。

「何事にもイレギュラーは存在する。何か有った時にはお前が責任を取ればいいだけの事だ」
「責任って……何言ってるんだよ父さん……」
「早く孫の顔が見たいものだな」
「だから何が?」

(……これだけ御膳立てしてやっても分からんとは……レイも苦労するな……)

 シンジの鈍さに呆れたゲンドウの笑みが苦笑に変わる。

「いや何でもない。レイを頼むぞ」
「分かってるよ。……じゃ僕約束があるからもう行くね」

 シンジは制服のスカートを翻して部屋を後にする。

 ひとりになったゲンドウは呟いた。

「……あんな格好の男を選ぶとは……レイの趣味は随分特殊なようだな……」

 もしそれをレイが聞いたらこう言うだろう。

「もう50歳も近いのにセーラー服で子供と対面するような人に『あんな格好』なんて言って欲しくありません」

 ネルフ総司令碇ゲンドウ氏は、後妻リツコ女史の趣味に振り回され女性の服を身にまとう生活にきっちり適応していた。
 今日のスタイルはセーラー服。リボンはパステルピンク。






- Thursday -

<葛城家>

 月の美しい夜。

 遠くで爆発音が起きた。かなり大きい。
 湯船に浸かって一日の肉体的精神的ダメージを癒していたミサトは、

「使徒!?」

 と鋭く一声発すると、ぽたぽたと雫を滴らせながらベランダへ飛び出していった。闇を引き裂くように立ち上る赤い炎と照らし出される煙が見えるが、使徒の襲撃かどうかの判断はここからでは無理なようだ。
 急がなきゃ。
 とりあえず服を着ようと部屋に戻ろうとしたその時。

「ミサト……その胸の傷……」
「うわぁあ!」

 いつから居たのかアスカが目の前に立っていた。そして手を伸ばすと凍り付いて目を見開いたミサトの古傷をそっと撫でる。
 痛みはないのだが心に隠した傷口が開き、見えない血を流す。

「セカンドインパクトの時のものね」

 神妙な顔つきで、深い慈愛のにじみ出た優しい声で浸透してくるアスカ。

「! どうして、それを……」
「フッ、あたしに分からない事なんて世の中に無いのよ」
「……どうせ加持君に聞いたんでしょ……あんのぶわぁか!」
「加持さんがミサトの過去を人に話すと思ってるの? そんなだからいつまでたっても……ま、いいわ。ところで、あの騒ぎ何かしら?」
「さぁ、今のところはなんとも。ちょっち見てくるわ。留守番よろしく」
「待ってよ、あたしも行く」
「だぁめ。子供は大人しく寝んねしてなさい」
「ちぇ。先に生まれただけのくせして偉そーに」
「なんか言った?」
「お土産にアイスでも買ってきてって言ったのよ。ただの野次馬なんでしょ?」
「シ・ゴ・ト・で・すっ!」



<の隣室>

 Tシャツにショートパンツという姿で、ブラウスにアイロンがけをしていたシンジも窓の外に気付き、慌ててレイを呼んだ。

「火事かな?」

 既にお休みの準備は万端、サイズの大きい男モノのワイシャツ一枚といういでたちでシンジの側に立つレイ。
 何故こんな服装をしているのか……それはリツコさんの入れ知恵であるに違いない。まさかとは思うがゲンドウからの提言かも知れない。

「普通の火事じゃないわ。救急車よりもパトカーのサイレンが多く鳴ってるもの」
「……聞き分けられるの?」
「少しだけ」
「そ、そうなんだ……。あれ、何があったんだろうね」
「それよりもう寝ましょう。シンちゃんこの頃顔色が良くないわ」
「え、あ、うん……」

 レイと二人きりで暮らしていると言う事柄がどれほどシンジの睡眠を浅くしているか、当の彼女は知らない。
 しかも。

「おやすみなさい」
「う、うん……おやすみ」

 同じ寝台に入り、隣で寝息などたてられた日には、たとえシンジでなくても眠れるかどうか……。
 こんな時に頼りになるシンジのもうひとつの人格『シンディ』は、対分裂使徒戦でのアスカとのユニゾン以後さっぱり発露しなくなってしまっていた。
 ちなみに特訓は不要だった。もともとアスカもどきであるシンディとアスカ本人との親和性は語るに及ばない。

(僕は……僕はどうすればいいの? 母さん……)

 シンジの夜は今日も果てしなく続く。





- Friday -

<通学路>

「ぐーてんもぅげーん! 今日も可愛いわねレイ!」

 シンジとレイが並んで歩く後ろから軽快な足取りでタッタッタッタと接近してきたアスカは、すぱーんとレイのお尻に平手を叩き付ける。セクハラである。
 びくっと硬直し立ち止まったレイがのろのろと振り向いて、にこやかなアスカの目を睨む。

「……おはよう惣流さん」
「重そうね、もってあげるわ」
「……いい」
「いいからいいから」

 鞄を護るため抱えこむレイから強引に奪い取るアスカ。

ついでに持ってあげるからシンディも寄越しなさいよカバン」
「……僕はシンジだよ」
「はあ? じゃぁどうして女の制服着てるのよ? もう親元離れて暮らしてるんでしょ? 好きな物着ればいいじゃないの」

 はぁ……と陰気な溜め息をつくシンジ。

「前の家が焼けちゃった時に荷物もみんな無くなったんだよ……母さんはこんな服しか用意してくれないし……」
「へえ、あんたもいろいろ大変なのねー。よし、今度うちに来なさいよ。あたしの持ってるのから何着か上げるから」
「え、いいの?」
「まあ、もうそんなに着ないしね。なぁんか加持さんの真似してるのも疲れちゃって」
「そんなもんなの?」
「……あなたが洞木さんにもう男の格好するのやめてと言われてるところ見たわ」
「げ。うそ。……やぁねぇ、そんな理由じゃないわよ!」
「アスカもう委員長の尻に敷かれてるんだ……」
「違うってば!!」

 のんびり歩く3人の前に、道路工事などでお馴染みの囲いが見えてくる。
 いち早くそれに気付いたアスカが小走りにそれに近づいて観察を始めた。

「昨日のアレはこれね。こんなに明確な物証があるのにUFOだ宇宙人だなんてニュース流して、日本のマスコミはお上の圧力に屈するために活動してるのかしらね」
「なにこれ、足跡?」

 道路には穴が空いている。それは確かに足跡と認識されるような形をしていた。

「使徒じゃないとしたら、いったい何だろ?」



<学校かつ校庭>

「……ロボットだ……」

 ぽか〜んと口を開け、校庭の真ん中にどーんとそびえる青い金属の物体を見上げるシンジ。そして興味なさそうに眺めているレイ。
 乗り物らしきフォルムの物体が何なのか、アスカはぐっと背伸びしてカカトの部分を触ってみたり、コンコン叩いてみたりしている。

「さっきの足跡、これとぴったりって感じね。うん間違いないわ、これが昨日の騒ぎの元凶よ」
「どうして……こんなところに置いてあるんだろ」
「う〜ん、例えば犯人が乗り捨てて逃げたとか? ……そんなわけないか」

 きーんこーんかーんこーん。予鈴が鳴る。

「急ぎましょうシンちゃん」
「あ、ゴメン行こうか」

 後ろ髪を引かれつつも教室へ急ぐ3人。



<教室>

「惣流〜〜〜〜〜〜っ!! ワシと勝負じゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 宿敵アスカが入ってきたと思った瞬間には身体が勝手に躍り出て、どこからか持ってきていた金属バットを青眼に構えて黒いジャージの少年は叫んだ。

「またぁ? 無理無理、あんたじゃ話にならないわ。一昨日来なさいって」
「なんやとコラァ!? やってみなわからんやろが! 逃げんのんか!?」
「やらなくたって、もう42戦42勝。勝率100パーセントだもの。時間の無駄よ、むーーーーだ。」
「か〜〜〜〜っつくづくムカつくわその態度! なんでお前みたいなヤツにイインチョは……イインチョわぁ〜〜〜っ!」

 怒涛の声量に耳を塞いで眉根を寄せたアスカは、自分の上に馬乗りになって泣きじゃくる少年を見下すような冷たい目線でトウジを一瞥すると、自分の座席へ向かう。

「ま、待たんかコラ! 勝負はまだ……」

 引きとめようとするトウジの視界の端に、般若か羅刹のような眼差しで睨んでいるヒカリの姿が映った。

「ま……」

 手を伸ばしかけたまま硬直し脂汗を垂らすトウジの横を、またやってるよな苦笑のシンジと無関心なレイが通りすぎていく。

「おはよ、ヒカリ。今日も綺麗ね」
「や、やだもうアスカったら」

 歯でも光りそうな爽やかスマイルのアスカと、先程までの修羅の雰囲気なんてどこへやらのヒカリ。二人は既にかけがえの無い親友状態にあった。いや、例え周囲の視線がそうと思っていなくても親友であった。少なくともヒカリ本人はそう言っているのだから、命を懸けてまで訂正しようとするものはいなかった。



<ほーむるーむ>

 セミの抜け殻集めが趣味という老教師がこほんと咳払いをした。

「えー、喜んでください男子生徒のみなさん。今日は女子の転校生がいます。―――霧島さん、入ってください」

 ガラララー……と力なくドアが開く。

 フィルムにソフトフォーカスがかかって再生がスローになるくらいの美少女オーラを振りまきながら入ってきたのは、ブラウンのショートカットにエンジェルリングも輝かしいアスカ好みの少女だった。

 ただし顔色が壮絶に悪い。

「き……きり……きり………」

 胸元までこみ上げている吐き気を堪えながら彼女は自己紹介をしようとする。

「どうしました霧島さん、気分でも悪いのですか?」
「は……はい……」
「せんせー、あたしが保健室に連れていきます!」

 コンマ2秒の間も置かずにアスカの手がしゅたっと上がり、さらにそのコンマ2秒後には、

「またお前か惣流!!」

 トウジがガタンと立ちあがって吠える。……が委員長にひと睨みされて着席。

「では惣流さん、よろしくお願いしますね。そうそう、彼女の名前は霧島マナさんと言って、戦自からスパイ活動のためにこの学校に潜りこんできたそうです」

 ……。

 音が止んだ。動きも止まった。

 ……。

「せ……先生……ひ、ひみつだって……教えちゃダメって……言ったじゃないですか……」
「ああ、そうでしたね。これは悪い事をしてしまいました。みなさん、今私が言った事は忘れてください」

 がっくりと教卓にもたれかかるマナ。照れ笑いを浮かべる老教師。
 今、2−Aクラスの生徒全員の心がひとつになった。

 それは無理だ。



<保健室>

「アスカさんは……私がエヴァの秘密を探りに来たスパイだって聞いて驚かないんですか?」

 こういう日には養護教諭は午後から出てくると決まっている。故にアスカがベッド横に付き添っているのは至極自然な行為なのである。
 アスカのなかでは。

「そのうち来るんじゃないかと思ってたから別にね」
「そうですか……」
「それに、可愛いコにいろいろ探られるってのもなかなかいいもんだしね」
「は、はぁ……そうなんですか」

 マナの症状はごくありふれた乗り物酔いであり、少し衣服を緩めて横になったらだいぶ顔色も良くなってきた。

「昨日の騒動、あなたがやったんでしょ? 霧島さん」
「え、ええっ? そ、そこまで知ってるんですか?」
「ほめてくれる?」

 にっこり微笑むアスカ。なぜかぽっと頬を赤らめながら頷くマナ。
 マナは視線を窓に向け、校庭をどーんと占領している青いロボットを見る。マナの視線を追ってアスカもロボットを見る。

「実はあれに乗って訓練施設から出るの昨日が初めてで、道が分からなかったんです
「なるほど、それで昼間到着の予定が夜になったのね」
「ええ……それで暗いなぁと思ってライトをつけようと押したボタンが……」
ミサイルでどっかーん?」

 がっくしと肩を落として昨日の記憶を辿るマナ。

「どうしようと思ってる内にヘリコプターは飛んできちゃうし、戦車に囲まれちゃうしで、結局捕まっちゃったんです」
「で、どうやって釈放させたの?」
「一応名目上は『使徒を仮想敵としての実戦データ収集』ってことで駐留の許可もらってますから、ネルフの何とか博士に連絡したらすぐ解放してくれました」

 うんうん、とアスカはうなずく。

「ここでもリツコね。それにしても……自分で操縦してて酔うなんて、何年訓練してるの?」
「まだ…2ヶ月…かな」
「2ヶ月!? 初心者マーク付きのドライバーに8耐させるようなもんじゃないの!」
「そうですけど……それでも私、施設では一番乗るの上手いんですよ」
「それはまたよっぽどトロいの集めてるのねぇ」
「あぁ〜っ、そこまでいいます〜?」

 まるで10年来の友のようにぽんぽんぽんと掛け合いした二人は、顔を見合わせるとくすくすと笑いだした。

「あたし、惣流・アスカ・ラングレー。エヴァ弐号機のパイロットよ……って知ってる?」
「はい♪ 身長体重スリーサイズから、交遊関係、趣味、好みのタイプまでバッチリです♪」
「そう……それならあたしが次にする事、あててみて」

 言いながら靴を脱いだアスカはベッドに上がり、マナの上に馬乗りになる。びくっと身体を硬直させるマナにはお構いなしに、両手をマナの頭の側について身体を支え、顔を近づけていく。
 頬をくすぐるアスカの髪にドギマギしながらマナは、ポケットを探った。そしてそれを握り、あわや自分の唇を奪わんとするアスカの進路を塞いだ。

 そしてアスカの唇が硬い物に触れる。

「ん?」
「あ、あの、これを受けとってください……」

 目を開けたアスカに見えたモノは赤い大きな石がはまったペンダントだった。

「これまた冷たいキスだこと」

 髪をかきあげながら苦笑を浮かべるアスカ。

「ごめんなさい……まだそういうのは、ちょっと……」
「(『まだ』ってコトは脈ありか……ま、いいでしょ)つけてくれる?」

 アスカがマナの上から降りる。上体を起こしたマナはまだ赤みの引かない頬のままでアスカの首にチェーンを回した。
 すかさずマナの首筋に息をふきかけるアスカ。

「きゃっ……もう、何するんですか!」
「呼吸」

 首を手で押さえて大慌てのマナに、からかうような笑みが投げかけられた。
 そこへ。

「アスカいる?」

 細く開いたドアから室内を覗きこむシンジ。アスカの後姿を確認して入ってくる。

「父さんから呼び出しだよアスカ。霧島さんも連れてくるようにだって」
「私も?」
「(やっぱりレイに声が似てるなぁ…)うん、スパイの娘って言ってたから、霧島さんの事だよね?」
「うそ! どうしてバレたの? まだ先生と警察の人と何とか博士にしか話してないのに!」

「……霧島さんって……もしかして天然?」




 
 
リツコさんの弟子メタルス
 
 
written by 三笠どら



<発令所>

「冗談ではないっ! こんなモノが着られるかっ!!」

 いつものように席に座り、手を組んで口元を隠している司令を怒鳴りつけている副司令。手にはどう見ても明らかにセーラー服だろうと思える衣類が握られている。それも白を基調とした夏服であり、セリフから推察するに副司令が着るとすれば似合わないどころの騒ぎではないような代物である。

「私が決めた事ではない。委員会の意向だよ」
「そう仕向けたのはどこの誰だ!? お前に他ならんだろう! 碇ゲンドウ! いや……ジェニー!!」

 名を呼ばれた司令はニヤリとほくそ笑みながら立ち上がり、スカートの裾を整えた。そして、副司令の青ざめた顔を見詰めると、ウインクをした。
 途端に胃から緑色の液体が飛び出しそうになる副司令。

「ぐ、ぐぬ……」
「その名前で呼んでくれたのは始めてですね冬月先生。嬉しいですよ……ですが、このネルフ新制服を立案したのは私ではありません。彼ですよ」

 司令はオペレーター席で、セーラー服を着た(しかも違和感なく似合っている)マヤが華麗に操作するモニターを見つめるひとりの少女を指差す。
 プラグスーツ姿の少女は、気配を感じて司令たちに視線を向けた。そして、セーラー服姿の司令を見とめると、笑顔をほころばせ、手を振る。

「とうさーん、良く似合ってるよー」

 少女では無かった。
 確かに並外れて女性的な顔立ちをして、細身の身体に詰め物か何かで凹凸をつけた女子用プラグスーツを着てはいるが、あの金髪、そして黒い眉、さらに傍らに控えるファーストチルドレン綾波レイなどの諸条件から導き出される答えは!

「う……裏切ったなシンジ君! 君は父親と同じでこの私を裏切ったんだ!!」

 ショックで混乱した副司令はそう捨てゼリフを残すと、頬にひとすじのキラメキを輝かせながら発令所を飛び出していった。

 そう。
 彼こそは前回、ネルフ一部職員を女装させる事で、自らの女装癖を誤魔化そうとした司令のひとり息子。
 技術一課の旧姓赤木博士によって新たな自分を目覚めさせられたエヴァパイロット、サードチルドレン。
 某所で行われたアンケートで『彼女にしたい男の子』部門3回連続第1位を誇る碇シンジその人である。

 ちなみに新制服の立案と言っても『セーラー服』と『ばにいさんの服』と『はいれぐ水着(白)』を並べられたうえで「シンちゃんはぁ、どれがいいっかなぁ〜?(ニヤリ)」と言われたから止む無くセーラー服をチョイスしただけで彼に罪はない。

 在りし日のユイさんに似た容貌で微笑みかけられ、ついぽっと頬を赤らめてしまったと同時に現在の夫人であるリツコさんに心の中で「すまない……」と誤ったゲンドウは、サングラスを直しながら目をそらし、しかし手だけは小さく振って答える。

「見て、レイ。父さん照れてるよ。可愛いなぁ」
「そうね……」

 同意を返しながらもレイは寂しそうに表情を陰らせる。逃げていった副司令を連れ戻すために発令所を出ていくゲンドウの後ろ姿が見えなくなるとシンジは、レイの顔を覗き込んだ。

「どうしたの?」
「なんでもないわ。ただ……私にはあんな顔見せてくれた事ないから……」

 呟きを聞いてシンジはくすくすと笑い出す。

「何がおかしいの?」

 今度はレイが問い掛ける。

「ちょっと前まで僕がレイに感じてた嫉妬と同じだって思ったから。ほら、僕がまだ男の格好してたころに」
「……思い出したわ。シンちゃんが、私とおじさまの会話を見て……」

 不意に飛び出した衝撃的な言葉に、ドゴスとハンマーで殴られたような錯覚を覚えてよろめくシンジ。

「お、おじさまは、ちょっと似合わないかな……」
「そう? ……なら、お義父さん」
「ま、まだ早いよ……」

 目に見えて赤くなるシンジ。レイはその様子を可愛いと思い、いいやもう別に司令の事はどうでも、と頭の中から捨ててしまうと、微笑みを浮かべてシンジの手を握った。

 ドキっとシンジが息を詰まらせたところで、ドアが開いてネルフ新制服姿の青葉、日向両オペレーターが入ってくる。

「おはよーっす」
「おはようシンジ君、レイちゃん」

 なんとなく目がつながれた手に行く日向。シンジはむずがゆく感じて手を離そうとするが、レイがぎゅっと握って離さない。掌に温もりを感じながらシンジは照れくさそうに笑った。

「おはようございます。あの、似合ってますよ日向さん」
「あ、ああ、ありがとう。ふたりとも、今日はテストなかったんじゃないっけ?」

 ごく自然に振る舞う日向だが、内心は恥かしくてドキドキ、逃げ出したくてうるうるである。こんな格好をしてまでここに居るのも、葛城さんの制服姿が見たいと言うささやかな願いが理由だったりする。

「今日転校してきた戦自のスパイの子に父さんが用があるそうで、連れて来たんです。それから、制服を変えたついでにプラグスーツのデザインも新しくしたって聞いて、試着してみようって話になって」
「お、じゃあそれが新しいスーツだね。……どこも変わってないじゃないか」

 青葉がシンジの全身を一通り見て言う。
 彼は今朝袖を通したばかりの新制服にもう慣れてしまったらしく、平然としている。もしかしたらかなりの大物なのかもしれない。

「えー、青葉さん分からないんですか?」

 こんな当たり前の事も分からないなんてびっくりと目を見開いてマヤが振り向く。そんな目で見られると青葉も焦りを覚え、もう一度シンジの姿を見る。

「え……そんなに変わってるの? うーん、ゴメン、分からないなぁ」
「もう、ここですよ、ここ!」

 マヤが指差したのはシンジの胸。

「2センチも大きくなってるのにぃ、青葉さんて乙女心が分からない人ですね」

 いや、それは普通分からないぞ……と日向は思ったが、当然口を挟むような愚行はしなかった。

「なるほど、そうだったのかぁ。いやぁゴメンな、シンジ君」
「は、はぁ……」

 ゴメンと言われても困るシンジは苦笑するしかない。別にスーツが2センチ膨らんだからと言って、着てる方としては何も以前と変わらないのだし、そんなところ大きくするくらいなら処分されてしまった男子用のスーツをもう一度作って欲しいくらいだ。

「ふぁ〜〜〜……おっはよ〜〜〜ん、みんな早いわね〜……えええ!?」
「どうしました葛城さん?」
「日向君……青葉君も、なぁにその格好!?」
「ミサトさんは制服着ないんですか?」

 マヤはいいとして(いいのか?)青葉・日向のセーラーっぷりに度肝を抜かれたミサトはいつも通りの赤ジャケット。ふと昨日を振り返ってみればデスクの上に『明日から着用の事』とメモの入った袋が置いてあったような記憶がある。

「て、ことは……つまり、これ……あ、ああ、そうなの? あたしはてっきり誰かの悪戯だと思って……もともと制服なんて着てなかったし……」
「じゃあ先輩も着ないのかしら……ちぇ

 非常に微細な音量の「ちぇ」が最寄りに居たレイの耳だけに入り、脊髄反射的にリツコがセーラー服の上から白衣を羽織っている状態を想像してしまって複雑な無表情に変わる。

(……変…………でも似合うかもしれない……)





<しばらく見ない間に様相をがらりと変えた司令の執務室>

 招き入れられたセカンドチルドレン及び初心者マーク付き戦略自衛隊ロボット操縦者は、動機は違うものの同じように驚き、室内を見回しながら司令の前に立った。

 かたやアスカの思った事は……
 なぜ、司令のデスクの側に机が増えている。
 なぜ、そこにリツコが座っている。
 なぜ、天井に描かれた『円を棒でつないだような胡散臭い模様』のうち5つばかりの円がデフォルメされたネコの笑顔マークに書きかえられている。

 かたやマナの思った事は……
 どうして、こんなに暗いところで仕事してるのかな。
 どうして、照明がうっすらピンク色なのかな。
 どうして、このおじさんセーラー服着てるのかな。

「霧島、マナだな」
「は、はい」

 地獄の底から響いてくるようなゲンドウの声に、一瞬訓練施設に居た鬼寮長の顔を思い出して敬礼しそうになるマナ。
 右手の指先がひくひく動くが、誰も気付きはしない。

「話は聞いている。エヴァの技術情報を盗みに来たそうだな」
「い、いいえ」
「あら、それじゃ昨日私に嘘をついたのかしら?」

 セーラー服の上から白衣を羽織った変な姿が良く似合うリツコが、冷徹な眼差しにキラリと光を宿す。

「い、いいえ」
「得た情報は設計部に送られ、ロボット兵器の改良に役立てられる。そうだったわね?」
「は、はい……」

 怯えるマナ。アスカがリツコの視線を遮るようにマナの前に立つ。

「マナをどうする気?」
「それはスパイだもの。おかしな真似をしないように、そうね…いっその事……」

 目を細めてコワイ笑みを見せるリツコ。いかにも何かしそうだ。

「そんなのダメよ! あたしが許さないわ!」
「……好きなだけデータを持っていってもらおうかしら」
「そんな事したらエヴァを乗っ取ってでも……………今何て言ったの?」





<葛城家>

 やおら賑わっているリビング。
 テーブルを囲むのはアスカ、マナ、シンジ、レイ。そしてなぜかカメラ目線のペンペン。

 ……だけなら良かった。平和な夕食タイムが送れた事だろう。

 しかしお祭り大好き人間葛城ミサト(現在台所にてカレー製作に奮闘中)によって、この憩いの場に波紋を呼ぶ一石が投じられていた。

「お、遅いねミサトさん」
「さっき覗いたらまた作りなおしていたわ。多分三回目」
「あ、そうなんだ…やっぱり僕手伝ってくるよ」
「……私も行くわ」
「待ってレイ! シンジ!」

 立ちあがりかけてアスカを振り向くシンジ。

「お願い、ここにいて」

 引きつった笑顔で、笑顔なのに泣きそうなアスカの両脇には、マナともう一人、ヒカリが居た。そして互いに噛みつきそうな顔でにらみ合っている。

 確かにここでシンジとレイが台所へ消えてしまったら、間が持たない。そう理解したシンジは大変だなぁアスカも、と他人事に感じつつも立つのをやめた。

「えっと、霧島さんは何を探りにこの街に来たの?」

 マナの注意をヒカリから逸らす意味も込めて、シンジは今朝からの疑問を口にした。

「アスカさんとステディになるため♪」

 即答だったが目も向けてもらえなかった。話も噛み合っていない。
 それと『ステディ(死語)』の意味がわからなかったが尋ねるのは止めておいた。
 ついでにアスカに「何バカなこと聞いてんのよバカシンジ!」な視線をもらったので黙っている事にして水の注がれたコップを手にする。

「ありがとうマナ、とっても嬉しいわ」

 それでもタイミングを外さずフォローを入れるアスカ。微笑みかけられたマナはぽーっとなる。
 ……それでいいのかマナ。

…ねぇアスカ
「な、なに!?」

 ヒカリの声が嫉妬にまみれた重たい響きに変わっている。背中を氷で撫でられたような寒い気分になったアスカは、柄にもなく狼狽する。

「アスカはもてるから…浮気は涙を飲んで我慢するけど……でも、最後は本妻である私のところに戻ってきてね」

 ぶふーっ
 コップを片手にシンジが口に含んだ水を噴き出す。
 すぐに横からレイがハンカチを出して拭いてあげている。

「な、何、言ってるのよ、ヒカリ……」
「だって私たちって、お風呂も寝るのも一緒じゃない、これってやっぱりその……夫婦だと思うの」
「ちょ、ちょっと、マナが誤解するでしょ」

 旧来なら黒ジャージの人に向けられるはずだったヒカリの破壊力抜群な赤面顔が、今やアスカの気を引くために使われている。しかも言ってる事は彼女の妄想である。入浴も就寝も共にした事はまだない。
 しかし真実味こそ欠けているが、夢と現実の境目が遠近両用メガネよりも曖昧なこの話はマナの血の気を奪うのに充分な力を持っていた。

「そ、そんな……アスカさんはフリーだって聞いてたのに……綾波さんのガードが堅いから難儀してるって聞いてたのに……だから綾波さんに良く似ててしかも胸が綾波さんと比べればちょっとは大きい私がスパイに選ばれたのにっ!」
「マ、マナも何言ってるのよ!」
「不潔よ……私が一番だって言っておきながら、ホントは綾波さんを狙ってたのね! ……私は都合のいい女に過ぎなかったのね!」

 不穏な空気が漂い、不穏当な発言が飛び交う。

「……こういうのを修羅場、っていうのかなぁ」
「知らないわ。多分もう、私3番目だから」
「3番目って?」
「洞木さんと、霧島さんの、次」
「……(どうして不満そうなのかは聞かない方がいいんだろうな)」

 危うくヒカリがマナに掴み掛かろうかというところで、ミサトが満面の笑顔で戻ってきた。

「お待たせ〜〜〜♪ 特製ミサトカレーよ〜〜〜ん♪」
「うそっ! カ、カレーなの!?」

 ヒカリとマナの争いを止めるため止む無く両者にヘッドロックをしたまま、アスカが頬を引きつらせる。

「あれアスカ、カレー嫌いなの?」

 腕の中の二人が嬉しそうなのが問題では無いかと思いつつシンジが問う。

「あんた食べた事ないの? ミサトのは、その……特別製なのよ」

 顔色がさーっと悪くなるアスカ。何かいやな思い出があるらしい。
 対して父の再婚で葛城家を出て以来ミサトの料理に触れていないシンジは、アスカの脅えた様子に首をかしげる。

「確かにミサトさんあんまり料理得意な方じゃないのは知ってるけど……カレーくらいなら誰でも作れるんじゃないかな」
「そんな甘い事言ってると死ぬわよ?」
「ささ、たくさんあるからいーっぱい食べてねぇ〜」

 ドカンドカンと並べられていくカレー皿。見た目はそれなりに美味しそうに見えるし、匂いも悪くない。

「こ、こういうのはまずお客様に食べてもらわないとね。シンジ、あんたから食べなさいよ」
「え、ぼ、僕から?」
「だめ。シンちゃんは私が護るの。毒味なら私がするわ」
「だぁあっ待ちなさいって! 素人が迂闊に手を出すと命に関わるのよ!」
「だったらレイに食べさせるわけにはいかないよ。僕が犠牲になる」

 手に手にスプーンを持ったまま静かに交戦が続く。

「いいのよいいのよ……作ったあたしの気持ちなんて全然考えてくれないのよこの子達は……」
「え゛っ、あ、ご、ごめんなさいミサトさんそんなつもりで―――」
「いただきま〜す♪」
「あっマナちょっと!」

 はむ。止める間もなくマナの口にスプーンが滑り込む。
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ……よぉーく噛んでいるマナについつい視線が集中してしまう子供たち。床にのの字を書いていたミサトもやはり気になって顔を向ける。
 ごくん。飲み込んだマナは緊迫した空気を粉砕する笑顔をにぱっっと見せた。

「……おーいしー♪」
「うそっ!?」

 目を丸くしたアスカは真偽の程を確かめるべく己を奮い立たせてスプーンを操り、カレーを口にする。
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……ごくん。

「……ほんとね、おいしい」
「なっはっはっはっ、見た〜!? これがあたしの本当の実力ってやつよ!」

 好意的な評価にミサトのグライコは一瞬で振り切ってレッドゾーン。ひっくり返りそうな勢いで胸を張ると、能天気なピースサインを出す。
 マナとアスカのお墨付きが出たので残る3人も食べ始める。……現金というか非情というか。

「人って変わるものなのねー……ここにドイツ時代のミサトのカレーがあったら、どれほど進歩したのか目に見えて分かるんだけど」
「え〜っ、そんなにひどかったっけぇ?」
「ひどいなんてもんじゃないわよアレは! 今でもドイツ支部では噂されてるわ。『ゲヒルン解体の原因はあのカレーじゃないか』ってね!」
「まっさかぁ、そんなわけ……ん? もしかしてあの時の……
「ミ、ミサト?」
「ジョークジョーク、本気にしないでよん」
「そ、そう……(だったらなんで目だけ笑ってないのよ!?)」

「はい、アスカ、あ〜んして」
へ?
「ああっだめ洞木さんっ! アスカさんに食べさせてあげるのはステディの私なのっ!」
「ごめんなさい霧島さん、私とアスカの間にあなたが入り込む隙間は全然ないの。それはもうまったくないの。だから……諦めて日本へ帰ってね」
「ひ、ひどい……こうなったら徹底抗戦ねっ! ええもうこれは略奪愛だわっ!」
「ちょっと二人とも…あたしを置き去りにして盛り上がらないで……」
「アスカ、あ〜ん」
「アスカさん、私のを食べてくださいっ♪」
「なっ!? 私を食べてなんて…ふ、不潔よっ!!」
「えっ!? だ、誰もそんなコト言ってませんーっ!」

「いんやぁ〜、もてる女はつらいわねぇ」

 こうなる事を見越してヒカリを呼んだのだからミサトは侮れない。
 いずれ戦う事になるかもしれないが、その時は周到な準備が必要になる、とアスカは密かな決意を固めつつ、ヒカリとマナの仲裁に入った。





<アスカの部屋『勝手に入ったら……覚悟しておくんだな』と張り紙されている>

 ベッドに並ぶアスカとマナ。シングルなので少し窮屈である。
 遅くなるとご家族が心配するからとなだめすかしてヒカリに帰ってもらい、遅くなったから泊まっていけとマナを引き止めたためにこういう状態になっている。

 ぼーっと天井を眺めるアスカ。昼間リツコが語っていた事を反芻している。

『一言で言えば、データを持っていっても何の役にも立たないわ』
『どうしてよ?』
『ポイントはLCLの生成技術が向こうには無いって事ね。あれ無くしては液体緩衝シートなんて夢物語だわ。エヴァ本体の構造にしたって、ネルフでも全容は把握していないのに、金属の塊を扱ってる人間が見てもね』
『把握してないって……そんなわけのわかんないモノにあたしたちを乗せてるのぉ?』
『立ってる者は親でも使えって言うでしょ』
『そういう問題じゃなーいっ!』

「……アスカさん、起きてる?」

 アスカに背を向けて身体を丸めているマナの声。

「やっとその気になってくれた?」
「違いますっ! だいたいその気って、何の気ですかっ!!」

 ぐるっと振り向いて力いっぱい否定するマナの頭にアスカの手が置かれる。ぽんぽん。

「やっぱりマナって可愛い。で、何の相談?」
「アスカさんってもとからそういう人なんですか……?」

 今は任務であるが本気ではまってしまいそうな自分に危惧を覚えつつ、正直な疑問を口にするマナ。
 アスカは寂しそうに微笑んだだけで答えなかった。

「聞きたい事はそれだけ?」
「あ、違います。あの……アスカさんは、パイロット止めたいって思った事はありませんか?」
「……あるわよ。何度もね」

 ただし止めたいと思っても、止めようとした事は一度もない。

「そういう時、どうしてあげればまた乗れるようになるんでしょう……」
「マナは、乗りたくないと思った事がないのね。それは友達の話?」
「……ケイタって言う脱走癖のある子で、いつもいじめられてました」

「ふぅん、男の子なんだ……かっこいい?」
「ぜんっぜん」
「(そこまで力いっぱい否定しなくたって……)そうねぇ、教えてあげてもいいけど……ひとつ条件があるわ」
「私に出来ることなら……あ、あの、そういうのはダメですからねっ」

 窓からさしこむ月明かりが、ぼんやりと照らし出す上目づかいのマナの顔。
 その目線は誘ってるのと変わんないって、と内心突っ込みを入れつつアスカはスマイルを見せた。

「明日デートしない?」

 目を見開いてベッドを飛び出そうとするマナを羽交い締めにして、いやいやと身をよじって逃走を計る耳元で一日のプランを囁くのは、次第にアスカの言葉に聞き入って大人しくなっていくマナの様子も含めて、とても楽しかった。





- Saturday -

<作戦局第一課>

「ミサト」
「むふぉ?」

 リツコの問いかけにタイヤキをくわえたミサトが椅子をターンさせて振りかえる。その拍子に机上の書類がばらばらと落ちるが、両者とも気にしない。
 片付けるのは日向二尉だから。
 ミサトはリツコのセーラー服+白衣という姿に一瞬思考停止するも、すぐに自分もセーラー服だった事に気付いて復活する。

「ちょっといいかしら。あなたに見せたいものがあるの」
「むふぇふいむふぉ?」

 怪訝に思ったミサトはリツコの顔を凝視する。
 普段通り冷静沈着だが、確かに今のセリフは声のトーンが嬉しさを含んでいた。

 何かある。いやな予感がする。

 だが逃げはしなかった。
 食いちぎったタイヤキの破片をごくりと飲みこむと、上着を手に立ちあがる。

「いいわよ」

 セーラー服に赤いジャケットは似合わない。




<セントラルドグマ>

 歩くのに必要な最低限の灯り。
 無言のリツコに連れられて厳重な扉の前まで来たミサトは、リツコの足が止まったのを契機に疑問を口にする。

「……どうやってコントロールしてるの?」
「……なんの事かしら」
「まだとぼけるつもりなの? 他の皆はどうか知らないけど、事の発端から知ってるあたしは誤魔化されないわよ」
「……」

 口をつぐみ、キーロックの数字をカチカチと押していくリツコ。

「考えてみれば今までの異変の裏には必ずあなたが居るのよね。シンジくんをシンディに仕立てたのを皮切りに、後頭部を強打してレイが気を失った時には秘密裏に病院を訪れて接触……ドイツに居たアスカに加持君を通じて何か送りつけた事もバレてんのよ」
「……なるほど、あなどれないわねミサトは」

 不敵な笑みを浮かべたリツコがセキュリティレベル最高のカードをリーダーに通す。

 ぴぴっ。
 赤いロック状態からアンロック……グリーンへ。

「でも、だからこそ真実を見せてあげようと思ったんだけど」

 ゆっくりと開く扉。
 その向こうには無表情な剥き出しのコンクリートが冷たい印象を与える部屋。



<水槽前>

 リツコがスイッチを入れると一斉に明かりが灯り、壁一面を覆うように設置された水槽が浮かび上がる。
 息を呑むミサト。

「綾波、レイ……!?」

 LCLの海にたゆとうレイの形をしたモノ。
 生気の無い虚ろな瞳をしたそれらのヒトガタは、一斉にミサトを見る。

「ひっ……!」

 腰を抜かしそうになるほどの衝撃を受けたミサトは、一歩二歩と後ずさった。

「可愛いでしょう?」
「ひ、ひとりならね……これ一体何よ!?」
ダミーシステムのコアとなる部分。人類の取りうる選択肢のひとつよ」
「ダミー…システム……?」
「そう。それが何か聞きたい?」

 リツコは、最近旦那に良く似てきたと評判(?)の笑みをニヤリと見せた。

「や、やめて! 聞きたくないわっ、言わないで!」

 ここで聞いたら一蓮托生になってしまう。直感的な恐怖を覚えたミサトは首をぶんぶんと横に振った。

「ふふふふ……これはね……」

 拒否されたからといって止めるようなリツコでは無かった。






- Sunday -

<葛城家>

「たぁ〜……だい……まぁ〜〜〜」

 マナがアスカの為に、カリカリに焼いたトーストにピーナツバターを塗っていると、徹夜飲酒を敢行したミサトが産まれたての小鹿のように不確かな足取りで帰ってきた。

「わぁ〜大丈夫ですか葛城さぁん! ――アスカ、はいどうぞ♪――ちょっと待ってくださいね、今お水を……」

 驚いたりニッコリしたりと顔の忙しいマナが差し出すコップを受け取ったミサトは、一気にそれを煽ると口元をぬぐいながら、おかわりの要求として空のコップを返す。
 アスカはぐったりと椅子に持たれかかるミサトの瞳をじっと見た。そして何かを見取ると不敵に笑う。

「随分荒れてるわね。リツコに、何を見せられたの?」
「アスカ……あなた、まさか始めから」
「さぁね。ご想像にお任せするわ」

 ふふんと鼻で笑いトーストをひと齧りするアスカに向けられたミサトの目が厳しさを帯びる。
 が、シリアス顔は長く保てなかった。
 テーブルに再び水の満ちたコップが置かれる。

「はいお待たせです葛城さん。―――アスカ、トーストもう一枚焼く?」
「うん、貰うわ」
「……おやぁ? そっちこそ何かあったのかしらぁ? どうして霧島さん、今日は『アスカ』って呼び捨てなのかしらねぇ」

 しゅぼっ!
 一瞬にしてマナの顔が真っ赤に染まる。
 アスカは涼しい笑顔のままだが。

「それもご想像にお任せするわ。それで、どうするの? ミサトは受け入れるつもりあるの?」
「まだ……わからないわ」

 迷いが声に出ている。

 ――ぷるるるるる、ぷるるるるる、ぷるるるるる

「あ、あたし出る。―――はい葛城……え? ……ええ、居るわよ。……代わればいいのね」

 アスカは受話器をマナに渡す。

「もしもし、霧島です……え? なんですか? ……えええええっ!? ロボットで脱走したんですかー!?





<芦ノ湖湖畔>

 大量の戦車が芦ノ湖を取り囲む。湖面は静かだが、脱走者浅利ケイタの駆る何とか巡洋艦(と名のついたロボット)が隠れている事は確実だった。

 戦車に紛れてエヴァ3体と、マナのロボットも待機している。

『今回、初めて戦略自衛隊と我々ネルフが共同作戦を展開する事になったわ』

 リツコの声が通信回線を通じてパイロットたちに伝わる。

『目的は脱走者の捕獲。それが叶わない場合には破壊による目標の停止』
『ちょーっち耳に挟んだんだけど、戦自ではN2爆撃機の準備もしてるらしいから、何とかしてウチで止めないとOUTよ』



<発令所>

「さて、あとはやっこさんが出てくるのを待つだけか……」

 ミサトはちらりとリツコの横顔を見る。嫁入り前より若々しくなっているような気がして少しむかっと来た。

「確かうちと戦自って犬猿の仲じゃなかったっけ?」
「昔はね。あの戦力と敵対するのは得策じゃないから、ご機嫌取りにお中元贈っておいたのよ」
「はぁ? 小包ひとつで協力してくれるようになるわけぇ?」
「もちろんハムやお酒なんてつまらない物じゃないわよ。私の特別製だから……気に入って貰えたようね」
「それって……あれ?」
「そうよ」

 ミサトはげんなりして溜め息をつきながらモニターに視線を戻した。

 湖面にボコボコと泡が立ち始める。

「来たっ」





<芦ノ湖湖畔>

 ずばしゃあっ!と水飛沫を上げて飛び出してきたロボット兵器に、戦車部隊の砲撃が降り注ぐ。
 しかし素早い動きを捉えきれず、有効打はおろか命中もおぼつかない。

『アスカ! 目標はやっぱり霧島さん狙いだわ!』
「そんな事わかってるわよ!」

 弐号機は既にマナの機体の前に立ち、迫り来る脱走ロボに備えて身構えていた。

『アスカ? 僕とレイは目標が外輪山を越えないように回り込むから、そっちは二人で頑張ってね』
「はいはい了解! ……来たわね……速いっ!」

 湖面スレスレを高速飛行する脱走ロボは、弐号機の側を通りぬける。

「ちっ逃がすかぁっ!」

 反射神経と運動神経と根性を総動員してアスカは脱走ロボの足を引っつかむ。
 だが。

「くうぅうぅっ! う……腕が抜けそう……!」

 向こうさんの方が重量が大きく、故にそれが飛ぶ為の出力も大きいため弐号機の腕は引き千切れそうに引っ張られる。
 離すまいと両手でがっちり脱走ロボを捕らえ、足元の地面を削りながら引きずられる弐号機。

『アスカっ!』

 その隙にマナのロボットが脱走ロボの正面からぶつかる。

『私が押さえてるから、今のうちに!』
「わかったわ!」

 ロボット二体のスラスター出力が均衡している間に、弐号機は脱走ロボに飛び乗り、その首に当たる部分に腕を回した。

「悪く思わないでね……うりゃぁぁぁっ!!」

 ベキベキベキィッ!!
 脱走ロボの首は無残にへし折れる。

 バキィッ!! ガキュィーンッ!!
 破片を投げ捨てた弐号機は続いて腕を折り、足を潰した。

「はいおっしまい。ちょろいもんね」

 だるま状態の脱走ロボはバチバチと漏電しているような音を立てながら徐々に出力を下げ、やがて動かなくなった。





- Monday -

<新箱根湯本駅>

「じゃぁ彼、除隊になったのね。それでも戻るの?」

「うん……多分もうここには来れないと思う。今回は止められたけど、もし次に誰かが暴走して、止められなかったら大変な事になるって……だからこれからは管理が厳しくなるって」

「そう……寂しくなるなぁ」

「手紙書くね。写真も送るし……」

「でも、写真じゃこうしてマナに触れられないわ」

「あっ……」

 プルルルルルルルルルル……

 発車を知らせる音が響く。

 名残惜しげにゆっくりとマナは離れ、扉はふたりの住む世界を断絶する。

「……さよなら」











<一週間程たった第壱中学校>

「惣流〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! ワシと勝負せいやぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 両手に金属バットを構えたトウジがアスカの前に立ちふさがる。

「……今そんな気分じゃないの…今度ね………はぁぁ〜〜〜〜〜〜……」

 死んだサカナのような目をしたアスカは溜め息をつきながらトウジの横をとぼとぼと通過する。

「お、お? おい、惣流?」
「ダメだよトウジ、アスカずっとあの状態なんだ」
「おうセンセおはよーさん。ずっとってどういうこっちゃねん?」

 苦笑を浮かべるシンジと、その腕にしがみついているレイ。

「お前ら……それはワシに対するイヤミか? ああ?」
「え? ……あ、レ、レイ……ごめん、ちょっと離れて」
「いや」
「ま、まあええわい……で、惣流のヤツはなんでああ―――ああっイインチョ! な、なんて破廉恥な事をっ! あかんっあかんでっ不潔やぁ〜〜〜〜っ!!」

 何を目撃したのか、いてもたってもいられなくなったトウジは教室を飛び出して行く。
 その背を見送りながら苦笑いのシンジはぽりぽりと頬をかいた。

「トウジって……あんなやつだったっけ?」
「人は恋をすると変わるのよ」
「そ、そうだね……」




<セントラルドグマ>

「ダミーシステム、起動」

 かち。
 リツコの指がキーを押した。
 ぎゅいいいいいいいいいいいいいいいん……と、巨大な光ディスクが回転する音だけが聞こえる。




<発令所>

「碇、また戦自からスパイが潜りこんでいると報告があったぞ」
「ああ……聞いている。だが今更盗まれて困る情報など残ってないわっ! 問題な〜しっ♪
ぬおっ!? き、急に変わるな! 心臓に悪い!」
ええ〜っそんなコト言われてもぉ〜、宇宙からぴぴぴって来ちゃったんだから仕方ないじゃな〜い?
「そ、その顔を向けるなぁぁぁっ」
もう〜冬月先生ったら照れちゃってぇ、かぁわいいぃ〜〜〜♪
「違うっ! 断じてちがーーーーうっ!! ……はうっ
あれぇ? 先生? どうしたの先生?




<ほーむるーむ>

 セミの抜け殻集めが趣味という老教師が教卓に立つ。

「えー、女子のみなさん喜んでください。今日はとても見目の良い転校生がいます。―――ストラスバーグ君、入ってください」

 ガラララーッ!……と元気いっぱいにドアが開く。

 バックに透過光が弾けて再生がスローになるくらいの美少年オーラを振りまきながら入ってきたのは、浅黒く日焼けしたパープルのショートカットにエンジェルリングも輝かしいどこかで見たような少年だった。

 ただし胸が膨らんでいる。

「ムサシ・リー・ストラスバーグこと霧島マナです! 引き続きエヴァの機密事項を探る為に名前を変えて潜入してきました!!」

「マナっ!?」

 アスカがガタンと席を立ち、マ……ムサシに駆け寄る。
 まるでそこが定位置のように自然に抱き合うふたり。

「やぁアスカ! 久しぶりだねっ!」
「ひどいじゃないかマナ、来るなら教えてくれよ。……会いたかったぜ」
「あ、あれ? アスカ……言葉ヘンじゃないか?」
「君の方こそ……せっかくの美少女がだいなしだ。いや、その姿もなかなかそそられるけどな……」
「だろ? 今朝6時に起きてアスカのために着てきた制服だからね!」

 アスカとマナは、加持っぽい口調ムサシっぽい言葉づかいで微笑を交わしている。
 その様子を見てうつむき肩を震わせるヒカリに、おそるおそるシンディが声をかける。

「あの、ヒカリ、あんまり気にしないほうがいいわよ……」

 直後ヒカリはがばっと顔を上げる。その瞳はキラキラと輝いている。

「ステキっ……」
「は?」
「ああっでもだめよ私にはアスカという旦那様が居るのに、どうして運命の神様は意地悪なのかしらっ?」
「はぁ?」

 頬をぽーっと上気させくねくねと身をよじりながら熱い視線を前方の抱き合う二人に向けるヒカリ。

「アスカもステキだけどムサシさんも素敵だわっ、どうして気付かなかったのかしら!」
「あの……ヒカリ?」

 シンディの肩をレイがちょいちょいとつつく。

「ね、ね、シンちゃん、洞木さんてばかなりヤバイって感じだしぃ、ほっといた方がいいんじゃない?」
「そ、そうね……関わり合いにならないほうがよさそうね……」

「えー、ストラスバーグ君の席は……ああ、丁度あそこが空いてますね。あの席に座ってください」
「先生ー、そこ鈴原君の席でーす」









<暗闇>

 ぼんやりと浮かび上がる赤い文字。

 しーれ。

 SEELE……ゼーレと読むらしい。

 何枚ものモノリスが出現する。



『碇は戦略自衛隊と手を組んだ。これは既に我々のシナリオから逸脱している』



『奴のワイフによる働きが大きいようですな』


『碇リツコ博士……ここまでの人物とは予定外だった』


『即刻碇を解任すべきです!』


『しかしネルフの人員は例の事件から減少する一方。
今碇を失えば計画そのものが水泡に帰す恐れも…』



『碇を切った所で夫人を外せない以上同じ事だ。
それよりもシナリオの修正を急がねばならん』



『零号機、初号機、弐号機……
 いずれのパイロットももはや寄り代としては不適切かと』



『こうなれば我らの手で予定を繰り上げるより他に無いでしょう』







『やむを得ん……四人目の選定と同時にフィフスを送りこむ事にする』















 今……何かが起こりつつある。
 それが何を引き起こすものなのか、知る者は少ない。





 

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